この対策として利用されるのが、RAG(検索拡張生成:Retrieval-Augmented Generation)と呼ばれる仕組みです。
RAGは、利用者の質問に関連する社内文書を検索し、その内容を生成AIへ渡して回答させます。AIモデルを再学習しなくても、自社情報に基づく回答を作りやすい点がメリットです。
しかし、RAGは「正しい資料を必ず探す仕組み」ではありません。検索対象に旧版マニュアルが残っていれば、旧版を根拠に回答する可能性があります。本部規程と店舗向け資料が矛盾していれば、AIはどちらを優先すべきか判断できません。
RAGが改善するのは、情報への到達性です。情報そのものの正しさではありません。生成AIの精度を高めても、参照する業務知識が古い、曖昧(あいまい)、矛盾しているという問題は解決しないのです。
店舗マニュアルをPDF化してAIに投入するだけでは不十分です。業務においてAIが活用できる知識にするには、少なくとも次の5項目が必要です。
1つ目は「出典」です。
法令、社内規程、メーカー資料、現場検証など、何を根拠にした情報かを記録します。出典のない経験談は、正式なルールではなく、参考情報として分ける必要があります。
2つ目は「適用条件」です。
全店舗で共通なのか、調剤併設店だけなのか、特定の地域や売り場だけなのかを示します。「返品できる」という結論だけでは不十分です。購入日、商品状態、レシートの有無など、結論が成立する条件を設定します。
3つ目は「例外条件」です。
通常の手順では対応できないケースと、誰へ引き継ぐかを決めます。AIが答えてよい範囲だけでなく、答えてはいけない範囲も明確にします。
4つ目は「責任者」です。
商品部、店舗運営部、法務部、人事部など、内容を承認し、更新する部署を決めます。AI推進部門やシステム部門だけに、業務情報の正しさまで担保させるべきではありません。返品ルールの責任は店舗運営部、商品情報の責任は商品部というように、業務側が正しさを担保します。
5つ目は「更新日と有効期限」です。
作成日だけでなく、次に内容を確認する日を設定します。期限を過ぎた情報は回答に使わない、または「担当部署への確認が必要」と表示する設計が必要です。
この5項目が付くことで、店舗マニュアルは「人が読む文書」から、検索、研修、AI回答に再利用できる「業務知識」へ変わります。
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