これまで生成AIは、テキストや画像の生成など、主にデジタル空間で活用されてきた。一方、現実世界の作業現場で人の仕事を支え、自動化を進めるには、物理的に動けるAIが必要になる。
そこで関心が高まっているのが、現実世界の状況を認識し、ロボットなどを通じて動作する「フィジカルAI」だ。人手不足が深刻化する製造業や物流業などで、作業の自動化や生産性向上につながると期待されている。
では、フィジカルAIは従来のロボットと何が違うのか。現場で活用するには、どのような準備が必要なのか。
人型ロボット「Pepper」(ペッパーくん)などのロボット事業を手掛けるソフトバンクロボティクス(東京都港区)で、事業推進統括 FMDX事業推進統括部 統括部長を務める池田潤氏が解説した。
本記事は国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 海上技術安全研究所、日本能率協会コンサルティングが開催した「造船業界におけるAI・ロボティクス普及に向けたシンポジウム」内の講演の一部を記事化したものです。
近年、飲食店で料理を運ぶ配膳ロボットや、施設内の床を清掃するロボットなど、さまざまな場所でロボットが活躍するようになった。調査会社の富士経済(東京都中央区)によると、2025年の自動走行ロボットの累計稼働台数は約4万2200台と推測される。
こうしたロボットの多くは、あらかじめ設定された手順に沿って動く。一方、フィジカルAIは、AIがロボットを通じて周囲の状況を認識し、柔軟に動作を変えられる点に違いがある。
「フィジカルAIは、ロボットが現実世界を見て、考えて、動いてを繰り返す。臨機応変に対応できる」(池田氏)
例えば、工場で部品を運ぶ場合、従来のロボットは決められた経路や手順に沿って作業する。フィジカルAIを活用すれば、周囲の状況を認識し、障害物などを避けながら動作できる。状況に応じて動きを調整する点が、従来のロボットとの違いだ。
フィジカルAIの活用を後押しするため、政府も関連政策を進めている。
政府は7月21日に閣議決定した「日本成長戦略」で、17の重点産業分野に対し、2040年度までに官民合わせて370兆円超を投資する方針を示した。対象には「AI・半導体」や「造船」などが含まれる。政府の投資を呼び水として民間投資も促し、日本の産業競争力を高める狙いだ。
AI分野ではフィジカルAIを重点領域に位置付け、10.5兆円の投資を計画する。人手不足が深刻な製造業や物流業、建設業などで導入を進める方針だ。造船業も、国際競争の激化や人手不足といった課題を抱えている。AIやロボットによる作業の自動化、生産性向上は、こうした課題を解決する手段としても期待される。
さらに、6月に改定した「AIロボティクス戦略」では、製造、物流、建設・土木など18分野を対象に、2040年までに1000万台のAIロボットを導入する目標を掲げている。世界の多用途ロボット市場で3割を超えるシェアを確保し、20兆円規模の市場獲得を目指す。
米国や中国の企業が急速に開発を進める中、日本はどこで競争力を発揮できるのか。池田氏が強みとして挙げるのは、日本の製造現場に蓄積された技術やノウハウだ。
日本の製造現場には、長年の経験を通じて培われた知見がある。こうした知見をデータ化し、AIやロボットの開発・活用につなげることが重要だという。
ただし、ロボットそのものの性能を高めるだけでは、現場への普及は進まない。ソフトバンクロボティクスは、現場の作業を徹底的に分析し、データ化することから取り組みを始めた。
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