世田谷区のAI活用は、Gensparkだけに支えられているわけではない。AI活用を浸透させるため、DX推進担当課の職員が各所管課に入り、業務での困りごとを聞き、AIの使い方を提案するなどの伴走支援を行っている。
成果を把握するため、深山氏らはアンケート調査を実施。個別支援を受けた職員から「支援された後の方が、指示の出し方や成果物の品質が上がった」という声が寄せられたという。また、「支援がなかった場合に同じレベルまで到達できたか」という質問に対しては「支援がなければより時間がかかった」という回答が多かった。
支援には、行政ならではの業務知識が必要になる。区の業務や作法を理解している職員が支援することで、より具体的な使い方を提案できたことも、成果につながった要因の一つだという。
また、庁内での口コミもAIツールの利用拡大につながった。AIツールに不安を感じる職員が多い中、成果物が共有されると「この資料ってどうやって作ったの?」と話題になり、そこから利用が広がっているという。
「良い成果が出るとまねしたくなる。そうした心理的な側面も利用拡大につながっているように感じている」
世田谷区ではこれまでに14業務でAIを活用し、約3カ月間で合計約2900時間の削減につながったという。複数の計画を参照して内容を整理する業務では、作業時間を240分から90分に短縮。削減できた150分を、内容の検討や論点の洗い出しに充てられた。
「結果的に、区民の皆さんにより良いサービスを受けてもらうための検討に時間を使えた、良い事例だったと思っています」
また、これまで手作業で行っていた資料作成や、誤字脱字・表記揺れの確認、分かりやすいスライドの作成などにも、AIを使う文化が定着し始めている。
一方で、AI活用によって新たな課題も浮き彫りとなった。
「確認と修正の負担は増えています。AIを使うと成果物がすぐに出てきますが、必ずレビューしなければなりません。そして、業務知識や自身の観点などがなければ、レビューしても良い資料はできません」
AIに全てを任せられるわけではなく、どんな業務にも区職員の知見が欠かせない。事実や数値が正しいかどうか、権利関係に問題がないかどうか、入力情報が公開可能なものかどうか、対外的な表現に問題がないかどうかなど、職員が必ず確認して成果物の品質を担保している。
世田谷区は、さまざまな施策によって職員によるAIツールの利用頻度を高められた。しかし、AIを業務手順そのものに組み込めている事例はまだ少なく、その点に課題を感じているという。
深山氏はその理由について「業務知識の深さはもちろん、そこをうまく言語化できているかどうかで、AIの成果物の内容は大きく変わってくる。まだまだ使い方が未成熟」とし、個人の工夫だけでは限界があると指摘する。
世田谷区では現在も検証を続けており、今後はどの業務でAIを使うのか、どの情報なら入力しても問題ないのか、どのような指示を出せば良いのかといったノウハウを共有していく。それに加え、検証で得られた成果や伴走支援の方法などを整理・共有し、組織全体での活用を進めていく考えだ。
AIを日常業務に根付かせるには、ツールの導入に加え、職員が実務で使いこなせるよう支援することが欠かせない。さらに、個人が培った経験やノウハウを組織全体で共有し、担当者が変わっても活用できる仕組みを構築できるかが、今後の課題となりそうだ。
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