同社はDXを推進する上で「スモールサクセス」(小さな成功)の積み重ねを重視する。
例えば、従来のAI活用のPoC(実証実験)では、技術的に実現できると確認しても、実運用に移す段階で作り直しが必要になり、使われないまま終わるケースがあった。
そこで、AIエージェントの開発環境と外部の支援を活用し、当初から実運用を見据えたアプリを短期間で開発。実際の業務で検証する方法に切り替えた。
対象としたのは、総務や会計など、専門知識や熟練者の経験に基づく判断が求められる業務だ。まずアプリを作り、現場で使ってもらい、改善点があればすぐに修正する。「作れるかではなく、使えるか、さらに効果が出るかにこだわった」
4カ月間で4部門、8プロジェクトに取り組み、5つが成功した。そのうち1つは、年間2億円を超える業務効率化の成果が見込めるアプリになった。一方、期待した成果につながらなかったプロジェクトも3つあった。
ここから発見したのが、データの形式や粒度がそろっていないこと、AIへの期待と現実にギャップがあること、ガバナンス不足などといった課題だった。これらの課題が具体的になったことで、データの構造化や人材育成、開発標準化などにつながっているという。
「DXで本当に怖いのは失敗することではなく、失敗から何も学ばないこと」
高橋氏はこう強調する。
高橋氏がDX推進を通じて強く実感したのは「組織には強い慣性力がある」ということだった。長年の経験に基づく仕事の進め方には、それぞれ理由がある。特に安全と安定供給を最優先する同社では、従来の方法を守ることにも意味がある。
それでも、事業環境が変われば仕事の進め方も見直す必要がある。変革には、部門のやり方を変えたり、これまでの成功体験を見直したりする痛みが伴う。「その痛みを誰も引き受けなければ、組織は元に戻る」と高橋氏は指摘する。
「DXは単なる実装ではなく、意思決定そのもの。何を変えるのか、何をやめるのか、誰が責任を持つのか、変化の痛みを誰が引き受けるのか。そこまで決めて、変革は初めて動き始める」
DXを進めるために最も重要なものとして、高橋氏は「人」を挙げる。変革の痛みを乗り越える覚悟を持ち、意思決定し、熱意を持って行動する人が必要だという。
最初の一人は、必ずしも社長やCEOとは限らない。現場の担当者や部門責任者、DX推進部門の社員でもよい。危機感を自分の中にとどめず、言葉にして周囲に伝え、仲間を増やし、意思決定につなげることが大切だという。
「誰かが会社を変えてくれると思っている限り、会社は変わらない。自分が変える、そう決めた人から変革は始まるものだと思います」
三井住友FGはなぜ、まだ「何が当たるか分からない」状況で「AI投資1000億円」に踏み切ったのか
「DXなき事業には人も金も出さない」 住友商事、4800人を“デジタル人材”に変える仕組みとは
2年間で「1万時間」削減 「1円の誤りも許されない」ソニー経理が“まず試してみる”DX集団に化けたワケ
「DXでかえって手間が増えた」現場は絶望 アート引越、年2400時間の業務削減への逆転劇Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング