排ガス不正問題が分かるディーゼルの仕組み:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
ディーゼル車に不正なソフトウエアを搭載していたフォルクスワーゲンの問題で自動車業界は持ちきりだ。ここで一度ディーゼルの仕組みと排ガス規制について整理し、問題の本質を考え直したい。
イリーガルとインモラル
こうしてみると、CO2重視のEU排ガス規制適合車は、NOxを抑制することが難しく、日米に輸出するのが厳しい土壌はあらかじめあったと言える。しかし、それをイリーガルな方法でパスするかどうかは企業のコンプライアンスの問題だ。
この問題についてもう一点書いておかねばならないことがある。排ガステストというものは、停止状態から何十秒で何キロまで加速、その速度で何十秒走ってさらに何キロまで何十秒で加速、というように細かく運転条件が定められている。これを運転モードという。これは一般的な運転をシミュレートしたものだ。
フォルクスワーゲンは、米国の排ガステストのモード運転に際して、テスト専用のプログラムが起動する仕掛けを組み込んで、日常運転とまったく違う動作をさせて不正に良好な結果を得た。これはインモラルかつイリーガルである。
ドイツなど一部の国だけで販売された実験モデルXL1。ターボディーゼルにプラグインハイブリッドを組み合わせた燃費スペシャルだ。1リッターの燃料で100kmを走る、いわゆる100km/Lカー。高い技術力をアピールしていたのだが……
ところが、世界中のすべての自動車もまた運転モード外では規定値以上のNOxを出している。フォルクスワーゲンを叩きたいばかりに運転モード外での排ガスをやたらと問題視する人がいるが、それはナンセンスだ。こう書くとすぐフォルクスワーゲンの擁護だと騒ぐ人がいるが、それは完全な理解不足で、筆者が言いたいのは「他の自動車メーカーすべてを犯罪企業扱いするな」ということだ。テストで運転モードが定められており、それをパスすれば合格である以上、運転モード以外(それは大抵飛ばしすぎである)の数値がどうであろうとイリーガルではない。
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