排ガス不正問題が分かるディーゼルの仕組み:池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)
ディーゼル車に不正なソフトウエアを搭載していたフォルクスワーゲンの問題で自動車業界は持ちきりだ。ここで一度ディーゼルの仕組みと排ガス規制について整理し、問題の本質を考え直したい。
もちろんテストの範囲外でも、あまりに無茶苦茶な結果を出すならインモラルではある。かつての国産車は運転モード外の超高速で、加熱によるエンジン破損を防止するために、燃料を余計に噴射して冷却していた。高速で燃費が悪くなるだけでなく、排気ガスも「毒ガス」レベルだったはずだ。現在では冷却技術が進んだので、もうそんなことはしていないと思うが、このケースですらインモラルではあるがイリーガルではない。
エンジンという機械は、超高速だけでなく、日常的にも低速から急加速するようなことをすれば、どうしても有害ガスを出してしまう。そういう科目も新たに加えて、新たな運転モードでのテストをするべきだという話なら分かるが、緩加速時の規定数値を、勝手に急加速に当てはめて「イリーガルだ!」と叫ぶ軽率さはいかんともし難い。実走行データを見て「基準値をオーバーしている」という意見も同じだ。イリーガルとインモラルの違いを理解しない批判は無理解を露呈するだけだし、仮にインモラルだという批判にしても、いたずらにモラルを要求するなら、全速全域の排気ガス浄化のために百万円レベルでのコスト増大と、性能の低下をユーザー側も引き受けなくてはならない。技術者は魔法使いではないのだ。
フォルクスワーゲンのように別のソフトを搭載するのは論外としても、制御ソフトをテスト向けにチューニングすることはどこのメーカーもやっている。筆者は、あまりにもテストに最適化したセッティングには反対だ。そういうセッティングをすることで、普段乗りにくいクルマになったりすることがあるからだ。ただし、何度でも言うが、それとイリーガルとは次元が違う。そこの区別をぜひつけて欲しい。そう願っている。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
現在は編集プロダクション、グラニテを設立し、自動車評論家沢村慎太朗と森慶太による自動車メールマガジン「モータージャーナル」を運営中。
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