2016年の小売業界はどう動くべきか?(2/3 ページ)
店舗閉鎖、コンビニとの経営統合……。長らく業績が振るわない総合スーパーにとって昨年は大きな転換期だった。そして今後、小売業界全体はどのように進んでいくのだろうか。専門家が解説する。
新たな時代の幕開け
既に顕在化している事象はECチャネルの台頭であろう。現在のEC物販市場規模は6.8兆円(EC化率6.1%)に達しており、2025年に17.7兆円(EC化率16.1%)へと拡大する見込みである(図1)。リアル小売業が本格的にEC市場拡大の影響を受ける時期が今後いよいよ到来すると言えるだろう。例えば、イトーヨーカドーやイオンの大手を筆頭に、ネットスーパー事業を強化しているのはその表れといえる。
ただし、ECチャネルの台頭は、小売企業と顧客の接点がICTによって根本的に変化していく過程の、ほんの始まりに過ぎない。ICT環境の整備がもたらす本質的な変化とは、消費行動のデジタルデータ化とビッグデータ処理によって、小売業におけるマーケティングの革命的な進化が可能になったことにある。
具体的には、モバイル環境、モバイル機器の普及、SNS(+スマートフォンアプリ)、ビッグデータの処理技術、非現金決済手段(電子マネーなど)によって、個人のさまざまな消費行動がデジタルデータとして足跡を残していく環境が整ったことがこれまでとの大きな違いであろう(図2)。このデジタルデータの足跡をたどることで、今まで不可能だった個人の消費行動をデータとして蓄積し、分析することが可能となったのである。
加えて、決定的な変化は、こうしたデータ収集分析がローコストで実現できる環境が整いつつあることであろう。これまでも、個人ごとの購買履歴からきめ細かいマーケティングを行うということは理論的には可能であったし、何度も試みられてきたが、費用対効果の問題から、小売業界においては顕著な成果を上げられていたとは言い難い。
しかし、個人が所有するスマホの機能は、初期のスーパーコンピュータ以上の処理能力を持つ時代になり、ICTインフラも整った今、コストのハードルはなくなったと言っていい。これによって、POSデータをベースとしたマーチャンダイジング中心のマスマーケティングを終焉(しゅうえん)させ、個人データをベースとしたOne to One マーケティングへ移行するという歴史的な転換期になるだろう。いわば、「モノ」中心のマーケティングから、「ヒト」中心のマーケティングに変わっていく時代の幕開けである(図3)。
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