「脱・大きくて重い」 新ステージに入ったクルマの安全技術:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
自動車の誕生以来、その安全技術は飛躍的に進歩してきたが、多くの場合、それと引き換えに車両重量がどんどん増えていった。安全性と軽量化の両立は果たして可能なのだろうか。
1886年にベンツが三輪自動車を発明してから130年、自動車は大きな進歩を遂げてきた。有史以来、大して進歩のなかった人類の陸上での移動速度を飛躍的に向上させることで、世界に物流という概念を生み出し、それが生産性を劇的に高めたことが、20世紀以降の人類繁栄の大きな要因であるといっても過言ではないだろう。もちろん水路に限れば船は古くからあったし、自動車より数十年早く鉄道も完成していた。しかし、ドアtoドアで人と物を運ぶ手段は、馬車から4000年間も進歩していなかったのである。
こうして人類に大きな貢献を果たしてきた自動車だが、引き替えにさまざまな問題も引き起こしてきた。公害、交通事故、貧富の差。そうした諸問題を解決すべく技術は進歩してきた。低燃費も低公害も、衝突安全や運転支援装備も、車両の低価格化も全てそうだ。
交通死亡事故は激減している
特に安全に関する技術では、自動車は大きな勝利を重ねてきた。内閣府による交通安全白書を見ると、事故発生件数(95万件)、負傷者数(118万人)ともにピークは2004年である。一方、死者数は1992年を境に24時間以内死者数と30日以内死者数を別計上する方式に変わったため、それ以前との直接比較はできないが、はっきりしているのは、少なくとも新方式の統計が始まって以降ずっと順調に交通事故による死亡者数が減っているということである。例えば、人口10万人当たりの交通事故死亡者数は、1973年のピーク時には16.2人に達していたが、2014年にはこれがわずか3.2人まで激減しているのである。
警察庁はこの死亡者の激減を交通取締の成果だと言う。それが全てウソだとは言わないが、筆者は自動車の安全技術の進歩の方がはるかに寄与度が高いと考えている。以前の連載にも書いたが、安全の基本を重要度順に並べてみると、大筋以下のようなものである。近年ドライバー支援による事故回避の技術(プリクラッシュ技術)が大きく注目されているが、本質的にはぶつかってからの技術(受動安全技術)の方が重要度が高い。プリクラッシュに完璧はない。「もしも」の事態が起きない前提で設計することは間違いだ。あくまでもぶつかっても安全を第一に、ぶつからない技術を上乗せしていくのだ。
(1)生存空間の確保
キャビンの強度を高め、搭乗者が生存できる空間を確保するとともに、キャビンを守るために、つぶれて衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンを確保する
(2)生存空間の中での人体拘束
キャビンの中で、頭部や胸部などを打ち付けないよう、人体を上手く拘束する
(3)損傷原因の排除
ステアリング軸のクラッシャブル構造やエアバッグ、エンジン/ミッションの意図的な脱落、ペダル類の強度設計など、事故時にキャビン内で人体に損傷を与える原因を排除する
(4)事故の回避
車両のスタビリティコントロールや、ぶつからないブレーキ、レーンキープアシストなどにより、事故を未然に回避する
関連記事
- ついに「10速オートマ」の時代が始まる
オートマ車の変革スピードが加速している。以前は4段ギア程度がわりと一般的だったが、今では5段、6段も珍しくない。ついにはホンダが10段のトルコンステップATを準備中なのだ。いったい何が起きているのか。 - 世界一の「安全」を目指すボルボの戦略
世界で初めてクルマに3点式シートベルトを導入したのがボルボだ。それから55年余り、同社の「安全」に対する徹底ぶりは群を抜いているのだという。 - トヨタは世界一への足固めを始めた
フォルクスワーゲンがつまづいた今、トヨタが王座に立ち続けるのはほぼ間違いないだろう。しかし真の意味で世界一になるためにはやるべきことがある。 - 進むクルマのIT化と、カー・ハッキングの危機を考える
ドライブするとき、スマホをつないだり、USBメモリを挿して音楽を聴くという人が多いはず。しかしクルマのIT化が進む現代、もしそこからウイルスが侵入してクルマが乗っ取られたとしたらどうなるだろうか。 - 「週刊モータージャーナル」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.