「脱・大きくて重い」 新ステージに入ったクルマの安全技術:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/4 ページ)
自動車の誕生以来、その安全技術は飛躍的に進歩してきたが、多くの場合、それと引き換えに車両重量がどんどん増えていった。安全性と軽量化の両立は果たして可能なのだろうか。
衝突安全試験で重くなるクルマ
特に1990年代前半に北米のNCAP(New Car Assessment Programme)に前面衝突試験が加えられて以降、世界各国で同様のテストプログラムが取り入れられ、自動車の設計は大きなターニングポイントを迎えた。
自動車は長らく、ラダーフレーム(はしご形フレーム)の骨格構造フレームにエンジンなどのランニングコンポーネンツを組み付け、キャビンを架装する時代が続いた。ほ乳類と同じように内骨格を持つ構造だ。しかし、1922年にランチア・ラムダが全鋼板製モノコックフレームを採用して以来、数十年かけて、徐々に外骨格構造に変わってきた。これは昆虫のように外皮が強度を受け持つ構造だ。あるいは卵の殻をイメージしてもらってもいい。卵の殻は圧力をうまく分散させると人間一人分の体重を支えられるという。球形の構造体で、全ての力を「圧縮方向」に受けることにより薄く軽い構造材を用いても剛性が確保できるのである。軽量、低重心、高剛性などメリットは大きい。自動車はモノコック構造の採用によってフレーム構造と比べて高剛性かつ軽量に進化した。
しかし、ここで明らかにしておかなくてはいけないのは剛性と強度の違いだ。剛性とは構造体全体にねじりなどの力が加えられた際の変形のし難さであって、局部的な力が加わった場合の強度とは別の指標である。モノコックは重量に対して高剛性なフレームを実現できるが、局部的応力には弱いのだ。実際、人一人の体重を支えられる卵の殻も、局部的に打ち付けられれば簡単に割れてしまう。
実は衝突テストは、モノコック構造にとって、苦手な項目なのだ。しかし、だからと言って自動車による交通死亡事故の状況を放置すれば、自動車そのものの衰退を招きかねない。自動車は安全性を進歩させなくてはならなくなった。この課題を解決するために、自動車のフレームは、外骨格構造と骨格構造のハイブリッドへと進み始める。
前面の衝突試験は、正面衝突のシミュレーションから始まり、50%ズラしたオフセット衝突が追加。近年では25%オフセットさせたスモールラップ衝突テストが行われるようになった。写真はボルボのスモールラップ衝突テスト
それはフレーム的な構造物を内包するモノコックだった。そして、高い強度で生存空間を確保するキャビンと、キャビンの犠牲となってつぶれることで衝撃を吸収するクラッシャブルゾーンの構成が確立される。しかしこれにも犠牲があった。つぶれ代を確保するためにクルマが大きくなった。加えて局部的な力を支えるための梁があちこちに渡された結果、モノコックによってせっかく軽減した車両重量がどんどん増加していったのである。
ほんの数年前まで、この重量増加はどんどん進んでいった。正面衝突に次いで側面衝突、追突、車体半分にズレたオフセットクラッシュ、つい最近では車体4分の1にズラしてぶつかる微小ラップ衝突と、対策すべき項目が増えていった結果だ。
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