漫画が売れたら終わりではない 敏腕編集者・佐渡島氏が描く『宇宙兄弟』の次:「全力疾走」という病(5/5 ページ)
講談社時代、漫画『ドラゴン桜』や『宇宙兄弟』など数々のヒットを飛ばした編集者、佐渡島庸平氏。大手出版社勤務というキャリアを捨てて彼が選んだのは、作家エージェントとしての起業だった。彼を駆り立てるものは一体何だったのだろうか――。
作家の価値とは?
コルクのような会社は日本ではあまり類を見ない。経営者として佐渡島は、どのように舵取りをしていくのか。
「新卒を採用するなど、従業員は増えてきましたが、母集団を大きくするつもりはありません。大きくなりすぎると、クリエイティブではなくなってしまうからです。クリエイティブなことをやっている作家に対峙(たいじ)する僕たちも同じ緊張感を持ってやりたい。そうすることで、コルクの創業当時からの目的である、作家の価値を最大化させることができると思っています」
作家の価値とは何か。
「ストーリーを作れることだと思います。ストーリーは、読む人の感情を動かすことができます。感情が動いた分だけ、作家の価値も高まります。以前、『宇宙兄弟』のポロシャツを作りました。これはただのポロシャツではなく、主人公のムッタが月面に行ったときの感情をファンに手渡しするためのグッズで、作家の価値を最大化するためのツールの1つというわけです」
作家の価値を最大化するため、著作権ビジネスも展開する。ただしそれは、従来のように「著作権を持つ」ことだけではないという。
「コンテンツの著作権を持つだけではなく、使う。これまで出版社はそれがうまくできていませんでした。著作権をうまく使っているのはディズニー、日本ではポケモンやサンリオなどが挙げられますが、ほかはあまり思いつきません。僕たちの仕事は本を作ることではなく、コンテンツを作ること。コンテンツをどう広げていくかを考えています。これまでのところ、会社の経営は想像していたよりはうまくいっているけれど、そもそも最初は経営に対する想像力もなかったので、本当にうまくいっているかどうかが分かるのはこれからだと思います」
コルクという社名は、作家の作品を後世に残すため、世界に届けるために、ワインのコルクから取って名付けた。世界に羽ばたける作家をエージェントしていきたい、そんな思いからだ。コルク創業から4年、まだ新作での大ヒットは出ていないが、いつ出てもおかしくない準備は常にしている。経営者になってもやはり佐渡島に焦りはない。「ダメならまた準備し直すだけ」と、自らを確かめるように言った。
(敬称略)
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