ランドセルがじわじわと値上がりしている理由:新連載・繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(3/4 ページ)
平均単価は約5万円、中には15万円を超えるランドセルも。数年前から小学生向けランドセルの高価格化が進んでいます。そしてまた、値段が高くても売れているのです。その背景にはどのような消費トレンドがあるのでしょうか。
ランドセルは約5割がジジババが購入
孫のためにジジババ(祖父母)がモノを買うという行動は以前から見られましたが、最近はモノに加えて「コトを一緒に体験する」というスタイルに孫消費が変化し始めています。ここではその一例を見ていきます。
孫消費とはジジババが孫のためにお金を使うという消費トレンドです。ランドセルはその消費実態として、50%程度がジジババからのプレゼントなのです。店によっては約7割というところもあります。
既に会社を引退して、後は自分たちが楽しむための消費と、孫と一緒の時間を過ごすための消費をしたいジジババが世の中にはたくさんいます。団塊世代の方たちは仕事をバリバリやってきたので、引退後の生活にもゆとりがあります。年金も満額で出ている世代です。
全国消費実態調査によると、こうしたシニア世代の消費はトータルで約120兆円あると試算されています。個人消費全体は支出がほぼ成長していないのに対して、シニア層の消費支出は2010年以降、3〜4%ほど成長し続けています。
品目別支出で見ると、男女ともに「貯蓄額」が高く、平均して1000万円以上の貯蓄があります。月間の支出については「医療費」「交際費」が若年層に比べて高いという結果が出ています。特に交際費は男性の単身世帯で月間1万4000円、女性の単身世帯で2万円を超えていて、平均1万7000円とすると、4250億円の交際費市場があると言えます。
このうち孫消費には約30%程度の支出がなされている(筆者推測値)と見られるため、約1275億円程度の孫消費市場があるというわけです。
シニア世代にとって、残りの人生は好きな場所に旅行して、おいしいものを食べ、趣味のゴルフや釣り、トレッキングなどを楽しむ。そんな日々を過ごすだけでも十分にパラダイスですが、最大の喜びは、目の中に入れても痛くないかわいい孫と過ごす時間です。
ジジババは孫には無償の愛を注ぎます。なぜなら孫と一緒にいる時間こそがジジババにとってはかけがえのないことだからです。だから、ランドセルに高いお金を使うなんていうのはむしろ、お願いしてでもやりたいことなのです。これが10万円以上のランドセルを支えている消費の背景であり、GWからランドセルを選んでいる家族の実態です。
ふくふくらんどにも3世代でお客さんが来店し、ピーク時の店内は100人以上のお客さんでごった返すというわけです。来店客は買物前後に食事をしたり遊びに行ったりして、ランドセルの購入も既にレジャー化しています。ランドセルという1つの商品が売れる背景には、モノ以上にこうした家族の新しいつながりが見えてきます。
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