相次ぐ自動車メーカーとIT企業の提携 両者の狙いとは?(4/4 ページ)
ITなど異業種から参入した新たなプレイヤーと、それを迎え撃つ自動車メーカー。本特集では、道路という古くて新しいネットワークを舞台に始まった次世代の競争を追う――。
本当の勝負はこれから
しかしなぜIT企業が自動車業界に参入しようとしているのか。それは移動という行動が人間の本能の一つであり、欠かせないものであることと、現在人間の移動を司るモビリティの中で、自動車は間違いなく主役の座にあるからだ。
インターネットの発達によって、人間の移動は少なくなると予想されたが、美しい景色を見たり、人と直接会ったり、バーチャルでは得られないリアルな感動が再注目されつつある。そのために自動車はこれからも不可欠であると、IT企業も認識したのではないか。
彼らにとって重要なのは、いかに快適に、便利に移動できるかどうかだ。IT企業はその視点で自動車改革を図ろうとしているような気がする。
電気自動車や燃料電池自動車など、自動車本体の改革では、依然として自動車メーカーに主導権がある。しかし、それをどう使うかという分野では、自動運転やライドシェアが象徴しているように、IT技術が重要になってきているわけで、その分野の知見に乏しい自動車メーカーが危機感を抱いているのは当然だろう。
だからなのか、今年になって、自動車メーカーとIT企業が手を組む構図がいくつか生まれている。GM(ゼネラルモーターズ)はLyftと、トヨタはUberと、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)はGoogleと、それぞれ提携すると発表した。
このうちもっとも踏み込んだ発表をしているのはGMとLyftの提携で、自動運転ライドシェアの実現を目標としている。つまり車両はGM、頭脳はLyftというすみ分けを行い、展開をしていくのだろう。
ちなみにホンダはこのGMと13年に提携を発表している。当初は燃料電池領域に限られていたが、ホンダの八郷隆弘社長は今年、提携範囲を自動運転技術にも拡大したいと語っており、GMとLyftの協業にホンダが加わる可能性もある。
トヨタはUberとの提携を結ぶ一方で、米国に人工知能技術の研究開発を行う会社TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)を今年1月に設立している。現在TRIが構える3拠点は、いずれも人工知能や自動運転の研究に長けた大学に近く、米国の頭脳の協力を得て自動運転の実用化を進めていくようだ。
こうした連携の動きと対照的なのが、ダイムラーやBMW、アウディなど欧州のプレミアムカーメーカーで、地図製作会社のHere(ヒア)を買収するなど、あくまで自分たちが主導権をとって自動運転やコネクテッドカーを実現し、付加価値として販売し、利益を上げていこうとしている。
しかし販売台数から考えると、この動きが主流になるとは考えにくい。今後主流となるのは、前述した自動車メーカーとIT企業のコラボになるだろう。
ただ、両者が組んだからといって一件落着と考えるのは早計だ。むしろ一連の提携はゴールではなくスタートと見るべきである。自動車メーカーとIT企業のどちらが主導権を握るのか、個々の枠組みの中で綱引きが始まるだろう。前述したように、自動車メーカーはピラミッド型が維持できる販売にこだわり、IT企業はプラットフォーム型が生かせるシェアを推進しようとするはずだ。
自動車メーカーとIT企業の対決は第1ラウンドが終わったにすぎない。ここから、第2ラウンドが始まるのだ。
筆者プロフィール:森口 将之
1962年東京生まれ。モータージャーナリスト、モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本デザイン機構理事。日本自動車ジャーナリスト協会、日仏メディア交流協会、日本福祉のまちづくり学会、各会員。著書に「パリ流 環境社会への挑戦」「富山から拡がる交通革命」「これでいいのか東京の交通」などがある。
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