「7カンパニー制」導入でトヨタ商用車ビジョンはどうなる?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/4 ページ)
2016年5月、トヨタは大規模な組織改革を実行し、7つのカンパニーに分けた。その中の1つ、CV(商用車)カンパニーのキーマンに戦略の展望などを直撃インタビューした。
2016年5月2日、トヨタ自動車は大規模な組織改革を発表した。トヨタを7つのカンパニーに分けたのだ。狙いは意思決定のスピードアップ。具体的には「企画から生産までの一気通貫」を目指す。発表以来、トヨタが何度も繰り返している説明だが、巨大になった組織が意思決定の速度を遅らせているのだという。「何も決まらない会議」という言葉まで出るほどそれは深刻なものだというのだ。
トヨタの危機感と新組織
と、悲観的なことを言うが、トヨタは販売台数だけでなく利益でも世界一だ。3月末で締まった2015年度の決算結果を見ると(関連記事)、売上高27兆2345億円で営業利益率10.0%。実績を見ればうまくいっているようにしか見えない。これでうまくいっていないと言われたら世界中の全ての企業が取締役総退陣レベルの話である。ピカピカの勝ち組なのだ。
にもかかわらず、その危機感の持ち方は尋常ではない。勝って兜の緒を締めよという言葉があるが、それを上回る危機感だ。「慢心しないように」ではなくこれだけの結果を残してまだ恐怖感と戦っている。世界のホームラン王・王貞治が、毎年シーズンオフになると「来年は1本もホームランを打てないかもしれない」と思ったという話を思い出す。
さてその改革では、これまでの機能軸の組織編成から、製品軸の組織へと変更された。トヨタの表記に従えば7つの組織は下記のようになる。
- 先進技術開発カンパニー
- パワートレーンカンパニー
- コネクティッドカンパニー
- Toyota Compact Car Company
- Mid-size Vehicle Company
- CV Company
- Lexus International Co.
この分類を見ていると必ずしも一切の例外なく製品軸へと移行したわけではなく、例えば、先進技術カンパニーは自動運転などの先行開発を、コネクティッドカンパニーはいわゆるIoT(モノのインターネット)を担うという意味で機能軸的な色合いが強い。
パワートレーンカンパニーはエンジン&トランスミッションの開発を行うので少し機能軸のニュアンスが残っている。もっとも製品軸の各部門が個別にエンジンやトランスミッションの開発を行うのでは無駄が多くなってしまう。パワートレーンは製品を横断して使われるという性格上、別くくりにせざるを得ない。
さて、残る4つがまさに製品軸だ。コンパクトカー、ミッドサイズカー、CV(商用車)、レクサスだ。
今回、このCVカンパニーのエグゼクティブ・バイス・プレジデントである中嶋裕樹氏に取材する機会があり、組織改革後のCVカンパニーについての説明を受けた。そこで分かったのはトヨタの粘り腰だ。上の分類でも「機能軸への移行」を強く訴求しながら、その整合を例外なく遂行するわけではなく、ものによっては機能軸での開発の方が効率が良いと言うことになれば、それはしれっとそのまま残す。こういう言行不一致がトヨタのおもしろいところなのかもしれない。理屈が先行するドイツ各社では、こうはならない。
関連記事
- 新型プリウス 名家の長男の成長
いよいよ市場投入となったトヨタのハイブリッドカー、新型プリウスをテスト走行した。わずか数時間の試乗だったが、さまざまな点で従来モデルとの違いを実感することとなった。 - 世界一をかけて戦うトヨタに死角はないのか?
フォルクスワーゲン、GMとともに自動車業界の「トップ3」に君臨するトヨタ。しかし、この2社をはじめ、世界のほかの自動車メーカーにもない強みがトヨタにあるのだという……。 - 謎に包まれたトヨタの改革
昨年末に発売となった4代目プリウスは、トヨタの新たなクルマ作り改革であるTNGA(Toyota New Global Architecture)のデビュー商品となった。これは単にクルマ作りの手法が変わっただけでなく、トヨタの組織そのものにも変革を起こした。なぜそうしたことが実現できたのだろうか? - 決算発表と2人の巨人 鈴木修と豊田章男
自動車メーカー各社の決算が出そろった。いくつかの決算発表会に足を運び、経営トップの声を直接聞く中で、ある共通点が見えてきた。 - 「週刊モータージャーナル」バックナンバー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.