ホンダNSX 技術者の本気と経営の空回り:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)
ホンダが高級スポーツカー「NSX」の国内受注を約10年ぶりに始めた。新型の細部に目をやると同社技術者の本気度合いが伝わってくる。その一方で、販売の無策ぶりが気になるところだ。
NSX最大の特徴は駆動にある
NSXの本質については多くの既報を見てご存じの方も多いだろうが、一応おさらいをしておく。
最も重要なのは、その革新的な駆動方法だろう。4輪それぞれに駆動力を配分し、駆動力で旋回させる「スポーツ・ハイブリッドSH-AWD」だ。クルマの前2輪だけを取り出して見たとき、右タイヤを駆動し、左タイヤを止めれば左に曲がる。ちょうど運動会の行進で内側の人は足踏みし、外側の人は大股で早歩きをするのと同じだ。内輪と外輪の描く軌道の長さを駆動力で意図的に作り出してやることでクルマを曲げる。もちろんそれは後輪でも行われる。
その仕組みは2004年にデビューしたレジェンドに採用されたものだが、NSXではモーターを併用することでさらに適応範囲が広がった。エンジンはV6 3.5リッター・ツインターボで、エンジンとトランスミッションの合わせ目に挟み込んだモーターがこれに加勢する。のみならず、前輪にも左右独立した2つのモーターを装備する。つまり動力はエンジンと3つのモーターということになる。
モーターのメリットは、まず制御速度がケタ違いに速いことだ。ドライバーがアクセルを操作したことに対して遅滞なくトルクが増大し、追ってエンジンが加勢する。サーキットなどで限界走行を試みた際には、トラクションコントロールをこのモーターのレスポンスを前提にギリギリに設定できる。つまりエンジンでは制御の粗さで踏み込めなかった領域まで使うことができる。
さらにフロント2輪はモーターなので、回生ブレーキを意図的に介入させることができる。先ほど例に挙げた左に曲がる状態であれば、左前輪に回生ブレーキをかけながら、右後輪に大きなトルクをデリバリーすることで、クルマの自転運動を作り出すことができる。旋回中のアンダーステアやオーバーステアに対しても、適切な車輪にトルクを流したり、回生ブレーキをかけたりすることでこれまでのクルマではできなかった姿勢制御ができる。自動車の運動における革命なのは間違いない。
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