なぜ滋賀県は北陸新幹線「米原ルート」に固執するのか?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
北陸新幹線延伸区間は「小浜京都ルート」にまとまるだろう。しかし、滋賀県は費用対効果に優れた「米原ルート」を譲らない。北陸地域も近畿地域も望まない「米原駅乗り換え案」は、実は滋賀県にもメリットがない。それでも滋賀県は主張しなくてはいけない。これは「我田引鉄」という単純な話ではない。
「小浜京都ルート」が最短時間、最高便益
11月11日、国土交通省は政府与党PTに対して調査結果を回答し、内容を公開した。概略をまとめると、
「小浜舞鶴京都ルート」
北陸〜新大阪間の所要時間は小浜京都ルートより長く、総費用は最も多い。総便益(経済効果)は小浜京都ルートより少ない。利用者数の目安となる輸送密度は最も少ない。費用便益比(費用対効果の係数)は0.8だ。この数値は1.0を下回ると効果が投資に見合わない、おカネの無駄使いと判断される。
「小浜京都ルート」
北陸〜新大阪間の所要時間が最も短く、総費用は米原ルートの3倍以上。ただし総便益は最も大きい。輸送密度は最も大きく、費用便益比は1.1となった。投資効果は判定基準をわずかに超える。
「米原ルート」
北陸〜新大阪間の所要時間が最も長い。これはJR東海が直通運転に難色を示しており、米原で乗り換えが必要になるからだ。しかし距離が短いため総費用は最も少ない。その分、総便益も小さくなるけれど、費用が小さいため費用便益比は2.2と最高になる。輸送密度は他ルートとは比較できない。前者2案が敦賀〜新大阪間の数値、この案は敦賀〜米原間の数値となっているからだ。
米原ルートが確定した場合、敦賀〜新大阪間は在来線特急を使い、新幹線に乗らないという懸念がある。金沢・富山と新大阪を行き来する人々も同様だ。米原経由では所要時間が約50分の短縮になるとはいえ、料金は3500円ほど高くなる。敦賀乗り換えか米原乗り換えか、という選択でどちらを選ぶか。
JR西日本としては、米原〜新大阪間はJR東海の収入となってしまうから、敦賀〜新大阪間の特急を残し、割引制度を創設して価格競争を挑むかもしれない。そうなると、北陸新幹線の経営主体となるJR西日本にとって、米原ルートはうまみがない。小浜京都ルートのように、米原〜新大阪間も独立した線路を建設したくなる。しかしこれは費用の面で小浜舞鶴京都ルートより格段に上がり、便益比は下がる。現実的な案ではない。
これらの要素を勘案すると、小浜京都ルートが最も現実的だ。確かに米原ルートは費用対効果の点で優れている。しかし、費用対効果重視は民間企業の考え方だ。公共的事業として捉えるならば、重視すべきは利用者数の多さであり、便益の大きさである。滋賀県が米原ルートの費用対効果が大きいと判断するなら、独自に建設して大儲(もう)けすればいい。北陸〜関西の移動利用者は、最短時間と適切な料金を求めている。小浜京都ルートが望ましい。政府はこの判断を誤ってはいけない。もっとも、長崎新幹線で武雄温泉乗り換え案という愚策を決めてしまった前科があるから油断できない。
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