日本の宇宙ビジネス 16年はどこまで進んだ?:宇宙ビジネスの新潮流(2/3 ページ)
世界レベルで宇宙ビジネスが盛り上がる中、2016年は日本も大きく前進した年だった。どのようなことがあったのか、この1年を振り返ってみたい。
JAXAとベンチャー企業の連携加速
また、2016年は国内の宇宙ベンチャー企業とJAXAの連携が数多く発表された。衛星ベンチャーのAxelspace(アクセルスペース)は8月に革新的衛星技術実証プログラム小型実証衛星1号機に関する契約締結を発表、さらに12月には衛星データ利用事業の促進を図るため、JAXAが進める地球観測事業と、アクセルスペースが進める「AxelGlobe」プロジェクトで相互に連携することで合意した。
また、宇宙資源開発ベンチャーのispace(アイスペース)は、9月に同社が運営する日本初の民間月面探査チーム「HAKUTO」がJAXAと共同研究契約を締結、月遷移軌道および月面における宇宙放射線環境データの取得を共同で実施することを発表。さらに12月には、月の資源の採掘、輸送および利用などに関する産業の創出・展開に向けた構想をJAXAとともに検討していく覚書を締結した。
欧米でも、例えばNASAは中小企業やベンチャー企業の技術開発・市場開拓のために過去5年で350億円ほどを投下している。また、昨今話題の小型衛星打ち上げ専用の小型ロケットにおいても、民間ビジネス振興と技術実証を目的に米Rocket Labや米Virgin Galacticなどと総額1500万ドルの打ち上げ契約を交わしている。こうした政府機関とベンチャー企業の連携には今後も期待していきたい。
衛星ビッグデータの利活用が加速
衛星データの利活用に向けた動きも前進している。前述のアクセルスペースはクラウドサービス大手・アマゾンウェブサービスジャパン(AWS)と提携して、年間7ペタバイトにもなる衛星データの管理およびオープンデータ化を検討。さらに、三井物産および三井不動産とともに、森林管理やアセット管理などの効率化に向けた検討を開始することを発表した。
こうした取り組みは世界的なトレンドだ。ビッグデータ化と解析技術の進化が重なり衛星データ利活用のバリューチェーンが変化している。小型衛星ベンチャーの米Planetや米Spireもパブリッククラウドサービスを活用して衛星データとAPIを公開(関連記事)。他方で、米Orbital Insightのように、自社では衛星を保有せず、他社や政府機関の衛星データを解析することに特化した企業も存在する。
さらに、その先には衛星データと他データを統合して、最終顧客にソリューションを提供する企業が存在する。IBMに買収された米The Weather Companyは、地上の気象ステーションの情報と統合して、高度な気象予測を航空業界などに提供。英Monsantoに買収された米Climate Corporationも独自の土壌センサーデータと衛星データを統合して農業関連企業に営農データサービスを提供している。いずれも最終顧客のオペレーションの生産性向上などが狙いだ。こうした事例は今後ますます増えるだろう。
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