イトーヨーカ堂の反撃は始まっている:新連載・小売・流通アナリストの視点(3/4 ページ)
大手GMS(総合スーパー)が軒並み業績不振だ。ただし、各社の置かれた状況は一律ではなく、起死回生の一手となるカードを持つ企業がいるのだ。それはイトーヨーカ堂である。
イトーヨーカ堂が不振の理由
ではなぜイトーヨーカ堂が今、ロードサイド型GMSと同様に業績不振に苦しんでいるのか。その理由は、首都圏駅前の好立地に甘え、店舗改装投資を先送りしてきたからだと考えられる。
イトーヨーカドーの首都圏駅前店はほとんどが昭和の開店以降、好立地に守られ大規模な改装をせずともある程度の集客を維持できた。しかし、店舗の老朽化が進み、駅から離れた周辺地域に少しずつ出店する競合、例えば、カジュアル衣料品チェーン「ユニクロ」のような専門店や、食品スーパーを中心とした中規模複合施設、大型ショッピングセンターなどに顧客を奪われつつある。首都圏でも駅から2キロメートル以上離れたエリアでは、クルマを使って買い物することが多いというデータがある。ロードサイドより緩やかではあるが、何十年も投資を狭小化してきた駅前の老朽店舗は、その魅力を失ってしまったのである。
こうした背景がイトーヨーカ堂の不振の大きな要因だとすれば、老朽店舗をスクラップし、新たな駅前立体型ショッピングセンターとして、再構築すればその魅力を取り戻すことが可能であろう。なぜ今までこうした再構築が行われなかったかといえば、彼らがGMS業態の抜本的改善の可能性を捨てきれなかったからである。
盤石の財務体質と収益力を兼ね備えたセブン&アイグループとしては、祖業であるGMSの構造改革をそう簡単にあきらめることはできなかった。しかし、改善の糸口を見つけられないまま今に至り、ステークホルダーからの批判を無視できなくなっている状況であろう。今度こそ彼らはGMSに固執しない総合的な商業施設として、GMS店舗の再構築に向けて、起死回生の一手を打つ時期が来たのである。それはセブン&アイグループの中期経営計画を見れば一目瞭然だ。
セブン&アイグループの10年中期経営計画のGMSに関する項には、そのことが明記されている。この計画がなりふり構わず実行されるのであれば、イトーヨーカ堂は首都圏で並ぶもののない複合商業施設運営会社として再構築されるだろう。
さらに蛇足を加えれば、イトーヨーカ堂には商業施設の核売場として食品部門を強化できる経営資源も保有している。全国有数の食品スーパー(SM)で、福島県を中心に宮城県、山形県、栃木県、茨城県の5県で店舗展開するヨークベニマルである。現場トレーナーやバイヤーの技術力育成など、同社の食品売場運営ノウハウは全国の同業が仰ぎ見る存在であり、イトーヨーカ堂が過去を否定することができれば、食品売場の吸引力が劇的に改善することは確実であろう。
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