旅先で学ぶ、私たちが食べることの意味:内田恭子の「いつもそばに本があった」(1/4 ページ)
旅はいつだって魅力的だ。どこへ行こうかと考えているだけでも楽しくなってしまう。そんな旅先で出会うおいしい食べ物や素敵な人々。そこから私たちが学ぶことはたくさんある。
内田恭子の「いつもそばに本があった」:
幼いころ両親に読んでもらった絵本、学生時代に読みあさった小説、アナウンサーの就職面接で朗読したバイブル的な一冊、そして今度は自分が親となり子どもたちに本を読み聞かせている――。これまでの人生を振り返ってみると、常に私の傍らには本がありました。
この連載では、日常生活の中で出会った数多くの本たちをエピソードなどとともに、ビジネスパーソンの皆さんにご紹介していきます。連載バックナンバーはこちら。
旅――。考えるだけでも楽しいもの。今年の旅はどこにしようかと、あそこでもない、ここでもない、と話しているうちから既に楽しい。もう一度訪れたい場所、初めて行ってみる場所。一度きりの人生ではとても追いつかない。
とにかくこれを手に取ったら最後、すぐにでも旅に出掛けたくなる一冊が、小川糸さんの「海へ、山へ、森へ、町へ」だ。
その土地のたくさんのおいしいものがギュウと詰まった作品だけでは決して終わらない。そこには自然とともに生きる人々の優しくも逞(たくま)しい笑顔、食べることの大切さ、自分たちの生き方にこだわり続ける強さ、そして、その土地その土地の不思議な魅力が紹介されている。
行ったこともない場所、会ったこともない人たちが、まるで自分も小川さんと一緒に旅に出掛けていたかのように、とても身近に、そして温かく感じられるのだ。「食堂をめぐる長い旅のはじまりです」と物語は始まるように、読んでいる私も一緒に旅を満喫してきた。
生きること=食べること
旅の魅力と言えば、人やおいしいものとの一期一会。まず登場するのが、沖縄・石垣島の「辺銀食堂」。ペンギン食堂のラー油でお馴染みのところだ。
土地のもの、旬のものがふんだんに使われたメニューが魅力的で、今すぐ石垣島に飛び立ちたくなるくらい。ゴーヤと泡盛のソルベ、渡り蟹のココナッツカレーや地豆担々麺にオリンビール。これ反則でしょ、というくらいのラインアップが続く。でも、それが特別においしいのは、きっと島を愛する気持ちとそれをいかにおいしく調理するかという気持ちがたくさん込められたものだから。だから、その料理を食べる人は幸せを感じる。
「おなかがいっぱいで気持ちいい状態から、愛しさや安らぎが生まれる。おなかが満たされていれば、争いだって怒らない。私は、人を平和に導くものは食べ物だと信じている」
食べることの大切さ、そしてそれを愛する作者の言葉にすべてが込められていると思う。
続いてはモンゴルだ。遊牧民の素朴で、自然に左右される過酷な生活を、作者はそこでの食文化とともに体験する。
「生きることが即、食べることにつながっていて、食べるために働いている。そのシンプルで力強く、無駄がない生活、何か忘れかけている大事なことを思い出しそうになった」
家族のために、ひとつの火、ひとつの鍋で長い時間をかけて食事を作るお母さん。それでも決して食べ物を切らせることはしない。限られた道具、資源、食材の中でやりくりするお母さんの姿は、とても懸命で美しく映る。大きな愛を持っている人なんだろうな。遠く離れた場所で暮らす、見知らぬ人に思いを馳せてしまう。
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