JRダイヤ改正で市販時刻表もダイワリ改正:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/4 ページ)
JRグループは3月4日、例年より少し早くダイヤ改正を実施した。新幹線開業など大きなトピックはなかったけれど、スピードアップや駅の廃止、路線延長など各地で動きがあった。その変化を正確に示す書物がある。市販の時刻表だ。
16ページ単位を巡る駆け引き
雑誌だけではなく、売れる商品は「便利なもの」または「おもしろいもの」そして「その両方を持つもの」だ。かつて時刻表は「便利なもの」分野だった。現在は「おもしろいもの」の要素も必要になっている。なぜなら、時刻表の商品性が変わってきたからだ。
乗り換え検索ソフト、検索サイトの利用が増えて、時刻表はかつてのように会社に1冊、部署に1冊という必需品ではなくなった。発行部数が減って、趣味層の購読者の比率が高まっている。旅行ファン、鉄道ファンへの訴求も重要だ。最近の月刊時刻表は付録が付いたり、巻頭カラーページが増えたりしている。付録も重量増の原因だし、カラーページの紙は重い。しかし、これはやめられない。
せっかく本文のページ数を削って軽くしたというのに、アクセサリー的な要素で重量が増える。まるでスポーツカーの開発のような状況だ。その本文のページ数にしても、増減は単純ではない。輪転機で一度に印刷できる単位は16ページで、1ページあたりのコストが最も安い。そこで、16ページが雑誌や本を作るときの基準となる。
列車の運行本数が増減、路線が開業または廃止された場合に、掲載枠を16ページ単位で増減できるなら、ページ数を増減する。16ページ単位で増減できない場合はレイアウト変更で対応する。掲載枠を詰めたり広げたりして、なるべく見やすく変更しよう、となる。
16ページ単位で本文ページを削除できた場合に、余った重量で付録や特集ページの分量が決まる。この余り重量には余裕も必要だ。2月号は3月号のダイヤ改正情報のうち、在来線特急と新幹線を特集ページで先に掲載する。指定席券の販売開始は乗車日の1カ月前だから、繰り上げて掲載しないと間に合わない。
逆に、余り重量があって、掲載する情報が少ないときはユニークな特集が組まれる。JR時刻表はカレンダー冊子やチケットを入れるクリアファイルが付録になったことがある。JTB時刻表は私鉄の時刻表を拡大して掲載した。マンガを載せたこともある。鉄道の情報が少ないときは、時刻表の魅力も減るため、特集ページで魅力アップを図るというわけだ。
乗り換え検索アプリより見やすく、おもしろく。市販の時刻表には、編集部の苦労と工夫が詰まっているのだ。
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