南三陸町で躍動する小さな会社の大きな挑戦:逆境を乗り越えて(3/5 ページ)
宮城県南三陸町で65年以上も前から鮮魚店を運営するヤマウチ。現在はECなど事業の幅を広げている同社だが、東日本大震災で店や事務所、工場はすべて壊され、ゼロからのスタートを余儀なくされた。しかしその経験で社員の仕事に対する価値観は大きく変わった。
売り上げ伸びるも社員は疲弊
そう吐露するのは、過去の苦い経験があるからだ。
今、ヤマウチの事業の柱の1つになっているのが自社ECサイトで、2004年に山内氏が1人で立ち上げた。当初はまったく売れずに、月商3000〜5000円という目も当てられない状況が続いた。ECに関しては山内氏も素人同然で、他社の人気サイトを見よう見まねしてみたり、商品写真の見せ方を変えてみたりと、試行錯誤の連続だった。「周囲に教えてくれるような人もいないのですべて独学でした。睡眠時間も削って、手探り状態で運営する日々でした」と山内氏は振り返る。
立ち上げから3年間はほとんど芽が出ずにいたが、そうした中でもコツコツと取り組み、1年くらいかけてサイトのリニューアルを実施。新たなASPサービスを活用したり、カートシステムを刷新したりして、徐々に売り上げが伸び始めたという。
軌道に乗りかけたところで、「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング」などのECモールに出店を開始。そこで販路を広げることで一気にビジネスが拡大した。2009年には「日本オンラインショッピング大賞 最優秀小規模サイト賞」を受賞した。
ところが、である。販路拡大によるビジネス成長とは裏腹に、ECモール各社でサービスの運用方法が異なるため、担当社員は同じ商品を販売するのでも、それぞれのやり方に合わせないといけなかった。さらにタイムセールのキャンペーン広告を入稿しろだなんだと、頻繁に運営会社から指示があって、スケジュール期限に追われていた。その結果、作業量が膨大になり、社員は疲弊していった。
また、ECモールに出店すると各社にロイヤリティを支払う必要があるし、商品購入者の顧客情報を自社サービスでは利用できないという制約もあった。
「ECモールを使うことで販売額自体は上がるのですが、利益はそれほど出ていない状況でした」
あるとき、山内氏がスタッフに目を配ると実につまらならそうに働いている。そして気が付けば、1人、また1人と辞めていったのだ。
「もういい。止めよう」。山内氏は決断する。ECについては、自社サイトだけに注力することにした。自分たちのペースで、しっかり顧客に対応できる商売をしていかないと駄目になるという危機感があった。
そうした最中に東日本大震災が起きた。結果的にそれが後押しとなり、もう無理だと思い、楽天やヤフーなどに連絡して解約を伝えた。ただし、自社サイトだけでやるにしても、原料は不足し、働く人もいなかった。再びECサイトで販売できるようになったのは、2013年1月まで待つことになる。
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