南三陸町で躍動する小さな会社の大きな挑戦:逆境を乗り越えて(4/5 ページ)
宮城県南三陸町で65年以上も前から鮮魚店を運営するヤマウチ。現在はECなど事業の幅を広げている同社だが、東日本大震災で店や事務所、工場はすべて壊され、ゼロからのスタートを余儀なくされた。しかしその経験で社員の仕事に対する価値観は大きく変わった。
権限委譲
ECサイトの再開に合わせ、働き方改革の一環として、社員1人1人にもっと仕事を任せるようにした。
これまで10年以上にわたって、ECサイト事業とB2B事業については、山内氏が統括責任者として切り盛りしてきた。その結果、社員は自分たちで考えて手を動かそうとせず、すべて指示待ちの状態になっていたのである。
「どんどん自分で意思決定できるほうが、仕事にもっとやりがいが持てるはず」
そこで山内氏は権限委譲して、多くの仕事や役割を社員たちに担ってもらうように変えた。そしてすぐに山内氏を頼らずに、社員たちだけで考える習慣をつけさせようと、極力オフィスにいないようにした。もちろん、商品販売管理で必要なエクセルシートなど、最低限業務が回るための仕組みは用意した。
次第に社員に責任感が出てきて、事業の売り上げについても意識するようになった。
一方で、失敗も積極的に奨励した。2016年末にあったエピソードを紹介しよう。
同社のECサイトの売り上げが最も伸びるのが年末年始。この時期に海産物を食べたいというニーズが高まるからだ。ただし、あまりにも注文が殺到するため、在庫を見ながらタイミングを計って注文をストップしなければならない。そのタイミングを1日早めるか、前年よりも1日延ばすかで、売り上げはかなり変動する。
そのさじ加減は経験や読みの良さなどがモノを言うが、2016年末は社員たちが安全策をとり、例年よりも2日早く注文をストップした。当然売り上げは前年を大きく下回った。
ビジネス上では失敗だが、そのことを身を持って体験したことは大きいと山内氏は考える。
「やはり実際に自分たちで考えて、運営してみないと分からないことが多いのです。それまで僕がいくら言い続けていても、結局のところ彼らの経験にはなっていなかったのですから」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
地ビールブームから一転、8年連続赤字で“地獄”を見たヤッホーブルーイング
現在、11年連続で増収増益、直近4年間の売り上げの伸びは前年比30〜40%増と、国内クラフトビール業界でダントツ1位に立つヤッホーブルーイング。しかしここまではいばらの道だった……。井手直行社長が自身の言葉で苦闘の日々を語る。
なぜヤンマーはカキ養殖に取り組むのか?
産業機械メーカーのヤンマーがカキの養殖に取り組んでいる。しかも産地は、これまでカキの生産実績がなかった大分県国東市だ。ヤンマーがカキ養殖に乗り出した理由、そこにはある男の強い思いがあったのだ。
中川政七商店が考える、日本の工芸が100年先も生き残る道とは?
全国各地の工芸品を扱う雑貨屋「中川政七商店」が人気だ。創業300年の同社がユニークなのは、メーカーとしてだけでなく、小売・流通、そして他の工芸メーカーのコンサルティングにまで事業領域を広げて成功している点である。取り組みを中川淳社長が語った。
なぜ従業員80人の会社が、新商品を年100種類も出せるのか
「新商品を開発したいけれど、いいアイデアが浮かばない」という人も多いのでは。そんな人にオススメの企業がある。年間100種類ほどの新商品を発売している小久保工業所だ。従業員80人ほどの会社なのに、なぜたくさんの商品を出すことができるのか。
業績回復に導いた、オリオンビールの徹底したブランド戦略とは?
今年に入って初の海外拠点を設立するなど、今では沖縄以外でも手軽に飲めるようになったオリオンビール。売り上げを伸ばし続ける裏側には徹底的なブランド戦略があった。


