サラリーマンの味方「切腹最中」は、なぜ1日に7000個も売れるのか:水曜インタビュー劇場(すみません公演)(2/5 ページ)
お詫びの手土産として、多くのサラリーマンが購入する「切腹最中(せっぷくもなか)」をご存じだろうか。1990年に発売したところ、当初は注目されていなかったが、いまでは多い日に7000個以上売れている。「切腹」という言葉が入っているのに、なぜヒット商品に成長したのか。
家族から大反対された「切腹最中」
土肥: 一般的に最中というと、薄く焼いた皮の中に「あんこ」が入っていますよね。でも、切腹最中は違う。あんこの量が多すぎて、皮が閉じていません。しかもそのあんこが光沢を帯びているので、「甘いのかなあ」と感じたのですが、実際に食べてみるとくどさがなく、口の中に入れると溶けていく感じ。
さて、この切腹最中を手にするために、多くのサラリーマンが店に足を運んでいますよね。取材前(平日の午後2時ころ)に、ちょっと観察したところ、8〜9割がスーツ姿の男性でした。和菓子屋といえば一般的に女性客が多いのに、なぜ男性……しかもサラリーマンが多いのか。その話を聞く前に、切腹最中ができた経緯を教えていただけますか?
渡辺: いまから30年ほど前、父が経営していた印刷会社を受け継ぎ、そこで兄と一緒に働いていました。そんなときに、新正堂を運営していた義父から「菓子屋をやらないか?」と持ちかけられたんですよね。断わるわけにもいかず、お店で働くことに。でも、全くの素人だったので、仕事が終わってから、夜は製菓学校で和菓子とは何かをイチから学んでいました。
土肥: 当時の看板商品は何だったのですか?
渡辺: 「豆大福」でした。お客さまからは「日持ちのする菓子をつくってくれないか?」、義父からは「ヒット商品をつくってくれないか?」といった話があったのですが、豆大福がよく売れていたので、なかなか手をつけることができませんでした。
数年後、義父が体調を崩して亡くなりました。残された私に「日持ちのするお菓子をつくらなければいけない」「ヒット商品をつくらなければいけない」という言葉が重くのしかかってきたんですよね。日持ちのいいお菓子といえば最中かな。でも、どんな最中にすればいいのか。悶々としていると、ふとこんなアイデアが浮かんできました。「店は、忠臣蔵でおなじみの田村屋敷の跡地にある。浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が切腹した場所だ。この地にちなんだ商品をつくることはできないか」と。
そして、紙に「切腹最中」と書きました。和菓子の商品名に「切腹」はダメかなと思い、「義士最中」「忠臣蔵最中」などと書いてみたのですが、どうしても最初に書いた「切腹最中」が気になって気になって、仕方がなかった。でも、家族からは大反対でした。「切腹とは何事だ!」と。でも、どうしてもあきらめることができませんでした。
ほかの人の声を聞くためにアンケート調査を行ったところ、119人中118人が商品名について否定的な回答でした。散々な結果に終わりましたが、1人は肯定的。その声にかけてみようと考え、「切腹最中」を発売することに。1990年のことでした。
土肥: 周囲からは大反対、アンケート調査でもダメ。そうした状況の中で、いわば“強引”に発売したわけですが、売れたのでしょうか?
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