サラリーマンの味方「切腹最中」は、なぜ1日に7000個も売れるのか:水曜インタビュー劇場(すみません公演)(3/5 ページ)
お詫びの手土産として、多くのサラリーマンが購入する「切腹最中(せっぷくもなか)」をご存じだろうか。1990年に発売したところ、当初は注目されていなかったが、いまでは多い日に7000個以上売れている。「切腹」という言葉が入っているのに、なぜヒット商品に成長したのか。
客がマーケットをつくった
渡辺: 義父からは「1日に80〜100個売れれば、ヒット商品だ」と言われていたのですが、全くダメでした。ただ、豆大福はよく売れていたんですよね。しばらく、おんぶにだっこ状態が続いていたのですが、徐々に売り上げが減少していきました。このままではいけないということで、喫茶店などを回って、店で販売してもらうことに。なんとか置いてもらっていたのですが、やがて大手菓子メーカーがやって来て、その会社の商品に取って代わっていきました。
では、そのころの切腹最中はどうだったのか。忠臣蔵ファンの人たちの間でちょっと話題になっていて、徐々に売れていました。でも、まだまだ「ヒット商品」と呼べるほど成長していませんでした。
土肥: 豆大福の売り上げは右肩下がり。周囲の反対を押し切って販売した切腹最中も、まだまだといった感じ。何がきっかけで、売れていったのでしょうか?
渡辺: ある日、証券会社の支店長が店に来て、このように言いました。「お客さまに勧めた株が大暴落して、その人は2000万円ほどの損失を出した。これからお詫びに行くのだけれど、何かいい手土産はないか」と。私は「切腹最中」を差し出して、「『詰め腹を切ってきました』と言えば、お客さんも許してくれるのでは?」と冗談で言ったところ、その支店長は本当に買っていきました。
1週間後、支店長は再び、店にやって来ました。「『切腹最中』を持っていったら、笑って許してくれたよ」と言っていて、そのときには「そんな使い方があるのか」と軽く考えていました。
証券会社の支店長はその後、支店長が集まる場で、このエピソードを話されたようで。それをたまたま取材していた日本経済新聞社の記者から「話を聞かせてくれないか」と連絡があったんですよね。嬉しくて、嬉しくて。私は忠臣蔵の話をたくさん話したのですが、新聞には「兜町で大人気、お詫びの品に切腹最中」と書かれていました。
土肥: 忠臣蔵のことは、ひとことも出ていない?
渡辺: はい、残念ながら。でも「お詫びの和菓子」という形で紹介していただいて、さまざまなところから声がかかるようになりました。全国の百貨店だけでなく、羽田空港などでも発売することに。
土肥: いまではどのくらい売れているのですか?
渡辺: 1日2000〜3000個くらいですね。12月14日の討ち入りの日が近づいてくると、7000個以上売れることも。和菓子屋というのは2〜3月はあまり忙しくないのですが、この時期に切腹最中を買う人が多いんです。人事異動になった人や定年退職する人が、お世話になった人に「小さなお詫びと感謝を込めて」贈るケースが多いですね。
土肥: 商品開発したときには「お詫びの手土産用に」なんて考えていなかった。その後の売れ方をみると、“お客がマーケットをつくった”とも言えますね。
渡辺: ですね。
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