日本の百貨店はまた同じ道をたどるのか?:小売・流通アナリストの視点(4/4 ページ)
インバウンド消費によって支えられている日本の百貨店だが、この恩恵が未来永劫続く保証はない。客離れという本質的な問題にメスを入れ、大変革を遂げるのは今しかないのではなかろうか。
そもそも百貨店は変革者だった
こんなことは百貨店経営者たちは百も承知で、今のうちに方向転換に着手しようとさまざまな取り組みが始まっている。ただ、老舗業界であるだけに慎重な進め方が必要なようだ。
三越伊勢丹ホールディングスでは、改革を進めようとしていた大西洋社長が17年3月に突如辞任に追い込まれたのは記憶に新しい。新事業への積極的な投資、地方店の見直し、仕入れ方法の見直しなど、進めようとしていた施策は個別に見れば妥当なものであり、後任経営陣も最終的には同様の方向性に進んでいくことになるだろう。ただ、老舗のしがらみは外野がとやかく言うほど簡単ではないということだ。「これからは大きく変わっていける企業だけが生き残る」とは、退任後の大西氏が「ダイヤモンド・オンライン」の取材で語った言葉。多分、百貨店関係者の大半が本当は同じことを思っているはずだ。
日本百貨店業界の源流とされる江戸時代の三井越後屋(現:三越伊勢丹)は、創業時は業界秩序の破壊者として登場したベンチャー企業だった。大衆をターゲットとして、呉服の店頭販売、定価販売、反物切り売り対応など、当時存在しなかった斬新なサービスを提供してトッププレイヤーに躍り出た。
時代が下って大正時代、阪急グループの創始者、小林一三氏が作り出した阪急百貨店も大衆をターゲットとしたベンチャーだった。鉄道沿線を開発しつつ、多数の乗客が利用するターミナル駅の大衆向け商業施設から発展し、電鉄系百貨店という日本独特の業態の先駆けとなった。振り返れば、百貨店は大衆顧客対応で発展した業界なのである。
時代は変わり、事業環境も大きく変化している中で、広く大衆全般に向けた総合小売業がナンセンスなのはよく分かる。ただ、ここまで顧客層を絞ってしまった百貨店が、今後も生き残っていくためには、もう一度顧客層を広げるチャレンジが必要だと思う。そのための店構えが従来の百貨店とは違っていても仕方がない。銀座松坂屋が「GINZA SIX」になって持続可能な事業となればそれでいいではないか。専門店とともに商業施設としての磨きをかけていけば、異文化の切磋琢磨(せっさたくま)が新しいやり方を生むかもしれない。実験を繰り返していけば、新たなフォーマットが生み出される可能性はある。大切なのは、百貨店の伝統や歴史を受け継ぐ商業施設を残していく、という強い意思なのだと思う。
米国ではECに押された百貨店の店舗閉鎖が進行し、歯抜けになったショッピングセンターのニュースをよく耳にするようになっている。こうした流れは日本でも近い将来起こることなのかもしれない。ただ、リアルのショッピングセンターのすべてがなくなるわけではなく、人口が密集した日本において時間消費型の商業施設が生き残る可能性はあるはずだ。経営資源(ブランド、立地、人材、取引先)に恵まれた百貨店は、十分にその資格を持っている。
インバウンド消費という天の助けは、チャレンジのための最後のチャンスなのだ。座して死を待つことなく、リスクを取って変革を実行するしか道はない。2025年問題までに残された時間は、もう8年を切っている。
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