くるぶしオヤジの登場も近い? ファッションと働き方改革の関係:繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(3/3 ページ)
日本の暑い夏に働くビジネスパーソンの間で「クールビズ」という考え方はすっかり定着しました。そんな中でクールビズファッションはさらに進化し、くるぶしを出すスタイルが今注目されています。
伊藤忠の狙いは働き方改革
伊藤忠商事では脱スーツ・デーを「社員1人1人の能力発揮を促す働き方改革の新たな一手」としており、関連して以下のような取り組みを始めています。
(1)伊勢丹新宿本店協力によるトータルコーディネートプログラムの導入(社員男女10人を募り、各人に伊勢丹のスタイリストが専属でアドバイスする)
(2)ドレスマナーの改定(デニムなどスマートカジュアルの推進など)
(3)ifs未来研究所・伊勢丹新宿本店スタイリスト(販売員)によるコーディネイト/スタイリングイベント(カジュアルコーディネート、メイクアップなど)の開催
(4)伊勢丹新宿本店スタイリスト(販売員)による最新トレンドおよびコーディネイトに関する「朝活セミナー」の実施
(5)階層別研修でのドレスマナーおよび社員のTPO全般に関する講義(啓蒙活動)
服装を楽にすることで快適に仕事ができるでしょうから、くるぶし男子は生産性を上げるきっかけになるはずです。もう1つの狙いは、ファッション市場の盛り上げという点です。伊藤忠が伊勢丹と組んでコーディネイトやメイクのあり方を社員に伝えようとしている点がポイントです。男性の着こなし方、コーディネイトの仕方を変えていくことで、取引先との会話のきっかけを作り、そこに新しい提案を生まれやすくしています。
伊藤忠商事は総合商社の中でも圧倒的にファッションに強い会社として有名です。現在、繊維事業は100億円以上の利益を上げ、「アルマーニ」など海外の有名ブランドのライセンスも数多く持っています。今の岡藤正広社長も繊維畑出身。つまり、脱スーツ・デーに会社を上げて取り組むことで社員のファッション消費を促すことができます。さらに小売大手の伊勢丹と組むことで、新しいファッションアイテムの購入などが生まれやすくなり、アパレル市場の盛り上げにもつながるというわけです。
今では伊勢丹新宿店でもくるぶし男子の販売員を多く見かけるようになりました。同店だけでなく、そごう・西武などの他店でも、くるぶし丈スタイルを提案するようになっています。
数々のアイテムをヒットさせてきたユニクロも「イージーアンクルパンツ」でくるぶしを出すスタイルを提案しています。
このように、くるぶし男子は1つのファッショントレンドという枠を超えて、これからの私たちの働き方や発想の転換につながるスタイルになるかもしれません。
これまではくるぶしを出すというスタイルは、「失礼なやつだ」「行き過ぎている」などとビジネスシーンでは受け入れられませんでしたが、今回のトレンドをきっかけに価値観が変わり、これからますます増えてくることでしょう。くるぶし男子というスタイルは新しい時代の幕開けを意味しているかもしれません。
クールビズで日本のファッションが変わり始めたように、くるぶし男子がファッションだけでなく働き方改革の推進となるように思います。
ただしオヤジがこのスタイルを取り入れるときには、回りの意見をくれぐれも聞くようにしてください。間違えて息子のパンツを履いてきてしまった、仕事ができないオヤジだと思われないように。自戒も込めて。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
株式会社 船井総合研究所 上席コンサルタント兼ブランドプロデューサー
1969年、静岡市生まれ。ファッションを専門分野とした流通小売業界のコンサルティングのスペシャリスト。百貨店の営業戦略および全社MD戦略立案、GMSの売場再構築、大手メーカーの新規ブランド開発、SPA型小売業の事業戦略策定、中小専門店の現場支援コンサルティングなどを通じ、各業界で注目を集めるグレートカンパニーを数多く輩出させている。街歩きと店歩きによる消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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