日本でも変わりつつある食品スーパーの常識:繁盛店から読み解くマーケティングトレンド(3/3 ページ)
日本の食品スーパーマーケット業界が転換期に差し掛かっています。今や単に食品を販売するだけでは消費者も物足りなくなり始め、新たな業態に変革しなければならない時代に突入しました。その切り口の1つが「グローサラント」です。どのようなものでしょうか?
減少続く食品スーパー市場
1つ目の理由は、日本の食品小売市場の変化です。同市場は実は減少傾向が続いています。20兆円を超える大きな市場ではあるものの、04年をピークに年々減少傾向が続いているのです。
大手総合スーパー(GMS)の業績が厳しいことと、食品関係を取り扱う異業種が増加して、食品を必ずしもスーパーで購入する必要がなくなってきたということも影響しています。コンビニやドラッグストア、最近ではカフェやアパレルショップでも食を取り扱うようになっています。巨大な市場であり、かつ購買頻度が高い特性をもったアイテムであるだけに、異業種が次々と食品市場に参入しているのです。また、ネットで食品を購入することも当たり前になってきました。食品スーパー業界はここで業態そのものをイノベーションしないと生き残れないと感じているのです。
もう1つの理由は、消費者のライフスタイルの変化です。共働きの家庭が多く、自宅での調理をできる限りしたくない消費者が増えてきたことで、米国の食品スーパーもデリ(惣菜)強化に動いてきたのです。
ニューヨーク・マンハッタンの「ホールフーズ・マーケット」のような都心型大手スーパーだけでなく、中西部で店舗数を伸ばす「H.E.B」(テキサス)や「マリアーノス」(シカゴ)など急成長しているスーパーは一様に店内に100席以上のイートインスペースを設置しています。米国ではこうしたスーパーをグローサラントと呼びます。グロサリー(惣菜)とレストランを合わせた造語です。
グローサラントというトレンドはあっという間に米国の食品スーパーの“常識”になりました。食品スーパー店内で買った惣菜やサラダを同じ店内で食べるというのは何となく抵抗があったのは今や昔。家で作るのは面倒だし、ごみも出るので、買った店でそのまま食べたいというお客さんや、ランチをレストランで食べるとお金も時間もかかるので、食品スーパー内の量り売りのサラダや惣菜を買って、その場で済ますというビジネスマンも増えています。このようなライフスタイルは日本でも拡大していくと思われます。そして、どうせ買うのなら、楽しく、ワクワクできるような店で購入したいという欲求はますます高まるでしょう。
こうした今の消費者のニーズを満たす業態がグローサラントです。日本の食品スーパーもあっという間にグローサラント化し、5年後には大きなイートインスペースやレストラン、カフェなどを店内に設置している店を「スーパーマーケット」と呼ぶ時代になっているかもしれません。
売り場を減らしてでも、イートインスペースが必要な時代になってきました。単に食品を購入するだけなら「Amazonフレッシュ」でいいですが、それだけでは満たされない消費者も大勢います。これからの食品スーパーは楽しい食体験を提供しなければならないのです。
グローサラントのような新業態は、ほかの業種でも必要なマーケティングトレンドです。
著者プロフィール
岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)
株式会社 船井総合研究所 上席コンサルタント兼ブランドプロデューサー
1969年、静岡市生まれ。ファッションを専門分野とした流通小売業界のコンサルティングのスペシャリスト。百貨店の営業戦略および全社MD戦略立案、GMSの売場再構築、大手メーカーの新規ブランド開発、SPA型小売業の事業戦略策定、中小専門店の現場支援コンサルティングなどを通じ、各業界で注目を集めるグレートカンパニーを数多く輩出させている。街歩きと店歩きによる消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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