日本の産業を死守! シャープ幹部が明かすJDIと協業の狙い:vs.海外勢(2/2 ページ)
シャープは、経営再建中のジャパンディスプレイ(JDI)に対し、ディスプレイ事業における協業を申し入れていることを明らかにした。シャープの上席常務でディスプレイデバイスカンパニー社長の桶谷大亥氏がその狙いを語った。
シャープが、ここまでJDIとの協業に前向きな背景には、日本のディスプレイ産業の衰退への懸念がある。そして、その懸念は、これまでシャープ自らが歩んできた道と重なる。
「1990年代には、多数の日系メーカーがディスプレイ事業に参入していたが、97年以降、日本の液晶パネル技術が、韓国、台湾、中国に流出し、一時期は約70%を誇っていた生産シェアは、現在では10%以下に縮小している。液晶パネルを使用したテレビやノートPCなどの最終商品でも、今では存在感がまったく発揮できない。また、装置メーカーや材料メーカーも、世界シェアが大きく減少している。JDIが選択を誤れば、海外に技術が流出するリスクが高まり、これと同じことが起こりかねない」(桶谷氏)
もちろん、シャープも鴻海傘下にあることを考えれば、外資系の1社と捉えることもできるが、「2016年8月以降、鴻海傘下で再建を進めてきたシャープは、独立した企業としての経営を維持しており、鴻海からの技術流入はあっても、ディスプレイ技術はいっさい流出していない。鴻海グループには、液晶パネルの開発、生産を行うイノラックスがあるが、付加価値製品が中心となるシャープとは生産品目に差があり、技術面での協業もない。シャープの提携相手が海外パネルメーカーであれば、事業を一体化し、その結果、技術流出も想定されたが、鴻海グループでは、そうしたことが起こらず、シャープの技術は、シャープのなかにとどまっている」と桶谷氏は説明する。
シャープは、「大日の丸連合」という言葉を使って、JDIとの協業により、ディスプレイ産業を、日本国内に残す必要性を訴えるが、この「大日の丸連合」という言葉の中には、JDIとシャープの協業だけにとどまらず、日本の装置メーカーや材料メーカー、そして、最終商品を開発するセットメーカーまでを含んだ日本企業の連合体を形成する意味が含まれている。
「ディスプレイは、コミュニケーションの窓口として、さまざまな分野での応用が見込まれている領域。例えば、日本の基幹産業の1つである自動車が大きな転換期を迎える中で、ディスプレイ産業が貢献する領域も幅広い。日本がディスプレイ産業を失えば、日本が得意とするロボットやAI(人工知能)、クルマといった最終商品の産業育成や強化に大きな影響を与えることになる。日本の経済全体を俯瞰(ふかん)したときに、ディスプレイ技術を、海外へ移転するリスクを軽視してはいけない」と強い口調で主張する。
JDIの東入來会長兼CEOは、経営方針発表の席上、「日本のディスプレイ会社6社が集まってできたのがこの会社。日本の底力を見せるチャンスでもある」と発言。さらに、「これがJDIにとってラストチャンス。第2の創業になる」とし、日本のディスプレイ産業の再建に意欲をみせる。
シャープの思いは、JDIにどこまで通じるのか。この数カ月で結論が出ることになるだろう。
著者プロフィール
大河原克行(おおかわら かつゆき)
1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。BCN記者、編集長時代を通じて、25年以上にわたり、IT産業、電機業界を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。現在、ビジネス誌、Web媒体などで活躍。PC Watchの「パソコン業界東奔西走」をはじめ、AVWatch、クラウドWatch、家電Watch(以上、インプレス)、日経トレンディネット(日経BP社)、ASCII.jp(KADOKAWA)、ZDNet(朝日インタラクティブ)などで連載記事を執筆。夕刊フジでは「まだまだスゴい家電の世界」、中日新聞では「デジモノがたり」を連載中。著書に、「松下からパナソニックへ 世界で戦うブランド戦略」(KADOKAWA)、「ソニースピリットはよみがえるか」(日経BP社)、「図解 ビッグデータ早わかり」(KADOKAWA)などがある。近著は、「究め極めた『省・小・精』が未来を拓く――技術で驚きと感動をつくるエプソンブランド40年のあゆみ」(ダイヤモンド社)。
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