「定年後に1億円」は本当に必要なのか:定年バカ(2/4 ページ)
フィナンシャルプランナーなどが講師を務めるセミナーで「定年後に1億円は必要です」といったセリフを聞いたことがある。「1億円」という数字を聞いてびっくりした人も多いかもしれないが、本当に1億円も必要なのだろうか。
定年後に必要なお金が1億円と聞かされても
定年後いくら必要なのかが、よく雑誌などで特集されているが、金額はまちまちである。そのつど、バカいってんじゃない、と私は思う。自分で、いくら必要なのかね、といっておいて、バカいってんじゃないもないものだが、一応、退職後の想定必要総額はこういうことで出てくる。
その計算方式は、毎月の予想生活費×12カ月×平均余命年数である。まあ誰が考えても、そうなるわな。岡崎充輝『図解 定年までに知らないとヤバイお金の話』(彩図社、2017)には、毎月約31万円×12カ月(年372万円)×平均余命22年間=約8184万円としているが、女性は男性より平均余命が6年長いから、「そこまで考慮すると、定年後に必要なお金は、1億円に近い金額になるようです」。
やっぱりな。1億円。「知らないとヤバイ」だけじゃなくて、知っても「ヤバイ」じゃないか。私たちは「定年後の生活費は今より減るんじゃないか」と考えがちだが、「食費や水道光熱費、住居費などの生活費の中心は減ることはない」と考えたほうがいい。しかも生活費以外にも、住宅ローンが残っていればその返済があり、税金(自動車税、固定資産税、消費税、相続税、一定以上の収入があれば年金にも税金がかかる)も健康保険料も、医療費もあり、結局、定年後に必要な資金は1億円以上になることが予想される、という。
なんだこれ? と一瞬ギョッとなるが、これはもちろん、最低1億円は定年前に準備しておかなければならない、ということではない。そんなこといわれたら、私は生きてはいけなかった。定年後には伝家の宝刀の退職金と、とりあえず年金がある。といって、むろん安心はできない。
まずは退職金である(いまでは退職金制度がない会社も多い、と聞くが、実情はよく知らない)。大卒、勤続35年の退職金は平均して2350万円といわれる(本によっては2200万とも2500万とも。ちなみに1500万円までの退職金は無税。それ以上になると税金がかかるが、大した額ではない)。しかし当然のことだが、退職金にも格差がある。厳しい事実である。団塊の世代は「逃げ切りの世代」といわれたが、私の退職金は勤続34年で900万円もなかった。宝刀どころかさびたボロ刀だった。先輩社員が「恥ずかしくて銀行にいえないよ」と嘆いたほどの額である。だれもが2000万円も3000万円ももらっているわけではない。
当時の社長から、定年まであと何年というときに月給を下げられ、定年まではこの額で固定するといわれた。退職金を減額するための仕業としか思えず(どっちみち五十歩百歩だったのだが)、その旨文句をいうと、いまでも忘れられない一言をいわれた。「君は運が悪い」。ぐう。しかしその社長でさえ、退職金は2200万円だったと聞いた。それも1回で払えずに、10年分割にしたが、社業の不成績により、結局残りの半分くらいは払われなかったのではないかと思う。
もういまさらその社長も会社も恨んではいない。その会社を選び、居続けたのは私が決めたことである。安月給で、金の使い方はけっこうザルだったが、それ以外ではいい会社だったと思っている。安月給で、金の使い方がザルで、どこがいい会社なのだと笑われる方もいるだろうが、そういうことはあるのである。
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