定年あるある「旧職の地位にしがみつく」:定年バカ(2/4 ページ)
前職でどのような仕事をしていましたか? 面接時、このように聞かれて「部長をやっていて、部下を管理していました」という人がいる。なぜ、こうしたイタイ言葉が出てくるのか。私たちが注意しなければいけないことは……。
くすぶり続ける自我
よく持ち出されるエピソードで、再就職の面接にきた定年退職者が、「前の仕事はなにをしてましたか?」と聞かれて、「部長をしてました」という話がある。これが、気位が高いだけの使えない退職者の典型として笑い種にあげられるのだが、私はその元部長がちょっとかわいそうな気もする。足を組んで椅子にふんぞり返ってそういったのなら正真正銘の肩書バカだろうが、その元部長の場合は、面接の緊張感から来たただの言い間違えだったのではないか。
いずれにしても、ふんぞり返りの役職未練バカはそんなに多くはないはずである。元部長のエピソードもめずらしい事例だから、いつまでも語り草になっているのではないか。ほとんどの退職者たちはさっさと前職や肩書に見切りをつけて、元警察官が町の洋食屋を開いた、というように、次の新たな一歩を踏み出しているのである。だが、そうはいっても油断は禁物である。そんな男はいることはいるのだから。
彼らは対人関係で、くすぶった自我を発散する。それが周囲とのあつれきを生じる。いったん身にしみついた大物意識は定年退職したからといって、すぐには改まらない。彼に残っている記憶は、良い思い出ではない。周囲に支えられることで維持できていた、世間知らずの自分だけの快適感である。これが定年でくすぶる。できればこんな男とは遭いたくないものだ。
佐々木常夫氏は、そのような人間に遭遇している。世間には会社のタテ社会の価値観をそのまま私的関係にまで持ち込む輩がいるが、「定年退職後も、その序列感覚と決別できず、地域社会に持ち込む人がいます」。氏が「マンションの管理組合の役員をしていたときに、その「典型のような人」がいた。「大手企業の専務まで務めたという人」だが、「組合の集まりに顔を出しても、『おれが、おれが』と場をやたらと仕切りたがる」。こんな男がうっとうしいのだ。未練バカは少ないと書いたが、意外に多いのか。
その「おれが、おれが」男は、そのくせ「実際の業務や活動にちっとも汗をかこうとしない」。だから「協調性にも欠けるし、他の人の意向や言い分を聞きながら意見をひとつの方向へまとめていくという、本来のリーダーに求められる器量にも不足している。地縁や私的つながりにおいて、もっとも役に立たず、もっとも面倒で、もっとも敬遠されるのが、このタイプです」(前出『定年するあなたへ』)。この男は佐々木氏と初対面したとき、氏の「前職や肩書をしきりに知りたが」ったという。未練バカの典型である。
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