2018年、鉄道の営業力が試される:杉山淳一の「週刊鉄道経済」2018年新春特別編(5/5 ページ)
「企業として、需要があるところに供給する。そういう当たり前のことを、鉄道事業者はやってこなかったのではないか」。つい先日、ある第三セクター鉄道の社長さんに聞いた言葉だ。小林一三イズムが落ち着き、人口が減少傾向にある中で、鉄道の営業努力が試される。2018年は、そんな時代になると思う。
新たな需要を掘り起こせ
鉄道事業者はいままで、線路を敷き列車を走らせればお客さんは勝手に乗ってくれると考えていた。認可制で並行する競合他社も少なく調整されたため、競争はなかった。しかし、少子高齢化が進行する現在、いつまでも受け身ではいられない。
小林一三が阪急でやったように、五島慶太が東急でやったように、線路を延伸して新たな地域を開拓して乗客を増やすという手法は、もう通じない。需要の発掘と適切な供給で、乗客を増やす必要がある。
茨城県のひたちなか海浜鉄道。起点の勝田発の最終列車は午後11時51分だ。関東の大手私鉄並みに遅い時間も運行する。その理由は、上野発午後10時30分の特急「ときわ」との接続を図るため。沿線の人々はこの最終列車のおかげで、上野などの飲み会に参加できる。1次会だけかもしれないけれど、この最終列車がなければ、飲み会に参加するために宿泊しなくてはいけなかった。上野の滞在時間を延ばそうと設定した最終列車だけど、地域内の新たな需要も掘り起こした。水戸や勝田で、もっと遅くまで飲めることになったからだ。
ひたちなか海浜鉄道の吉田千秋社長は「企業として、需要があるところに供給する。そういう当たり前のことを、鉄道事業者はやってこなかったのではないか」と言う。
いままでの鉄道は受け身すぎた。もっと積極的に顧客を獲得する動きがあってもいい。その一端が近年の観光列車ブームともいえる。鉄道事業者が営業面で攻めの姿勢になる。その意図や目的、手法はどうか。新たな1年、「ビジネスオンライン」と付くこのサイトで、解き明かしていきたい。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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