手間をかけて“心に残る”旅を企画 「鉄旅オブザイヤー」優秀ツアーとは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
旅行会社が開催した「鉄道好き企画旅行」のコンテスト「鉄旅オブザイヤー2017」。今回は審査員を務めた筆者が、受賞作品や受賞しなかった優秀作を紹介する。
一般部門 ベストアマチュア賞
『じゃんけんに負けたら強制下車★山陰本線でめざせ!途中下車の達人』(吉田直哉氏)
一般部門は個人参加部門。旅行会社ではなく、鉄道ファン、旅行ファンが、自分なら参加したいという旅を企画して応募する。ビジネスのしがらみを外して自由な発想でチャレンジしても良いし、旅行会社が悔しがるようなビジネスプランは大歓迎だ。
ベストアマチュア賞はアイデア直球勝負の勢いある作品だ。1日目は一畑電車に乗って出雲大社を観光し、2日目は山陰本線の出雲市から各駅停車で江津へ。朝の列車内でジャンケンを行い、負けた人は次の駅で降りる。これを繰り返して、各駅で降りた人が周辺の観光を楽しむ。それぞれの駅から夕方の指定列車にのって江津に集合し、旅の報告会と打ち上げパーティを実施する。
かつての人気番組『アメリカ横断ウルトラクイズ(1977〜92年)』や『クイズ列車出発進行(1979〜80年)』を連想する、どこか懐かしい企画だ。若い人はこんな番組を知らないから、きっと新鮮な楽しさだろう。クイズではなくジャンケンというシンプルなルールもいい。ゲームのような旅づくり。負けた人が降りて屈辱を感じるより、勝った人が降りて旅を楽しめると前向きにした方が良いかもしれない。
一般部門 準アマチュア賞
『ムスリム旅行者も安心、鉄道で行く日光・鬼怒川の旅』(佐藤仁美氏)
東武鉄道の特急「リバティ」「スペーシア」「SL大樹」を組み合わせた2泊3日の旅。タイトルにあるように、ムスリム旅行者に向けた訪日観光ツアーだ。ハラール食や礼拝習慣など、イスラム教の決まりや禁止事項に細心の注意を払った。なぜこの方面かといえば、例えば東武ワールドスクウェアは礼拝室と洗浄スペースがあり、園内のレストランもノンポーク、ノンアルコールのメニューがある。宿泊先もハラール食の対応があり、礼拝室を完備している。宗教上大衆の面前で裸になることを禁止されていても、貸し切り浴室で温泉を楽しめる。
今回の審査の中で、私にとっては新たな視点を得て勉強になった企画だ。ムスリム、ハラール対応などは旅行会社でも研さんしているだろう。鉄旅オブザイヤーに出品されない理由は、賞の対象が国内ツアーであり、国内在住者を対象と考えている会社が多いから。しかし、訪日観光客向けも立派な「国内ツアー」だ。そういう切り口もあったな! と思った。
訪日観光客向けという視点、そこに、イスラム教徒への配慮という視点。そこに、17年の鉄道の旬ネタ「SL大樹」を組み合わせた。よく調べられている。気付かせてくれてありがとう。受賞者の佐藤氏は旅行業のビジネススクールの学生さん。この賞への出品が課題になっている学校も多いのだろうか。一般部門は16年の創設で、まだ2回目だけど、今後の展開が楽しみになってきた。
『【選べる出発・帰着】インスタ映えスポットも満載!良縁祈願・出雲大社と人気列車でめぐる山陰の旅 』(入江千恵子氏)
17年の流行語大賞となった「インスタ映え」。写真SNSアプリ「Instagram」で自慢できる写真を撮るという意味の言葉を取り入れた。その感覚は商品の値付けではとても重要だ。数多くの企画商品がある中で、まずは目立たなくては話にならない。女性に人気の山陰の旅と「良縁祈願」「インスタ映え」。これだけで成功は確定したも同然だ。
ツアー内容は、共通行程としてSLやまぐち号・石見銀山・出雲大社・一畑電車・水木しげるロード・鳥取砂丘を巡る。現地までの往復はサンライズ出雲または新幹線と在来線特急乗り継ぎを選択できる。早起きできる人は新幹線で、新幹線に間に合わない、朝に弱い人は寝台列車で。ただし、往路のサンライズは早朝の岡山で降り、朝食のおいしいホテルランキング上位の朝食を楽しむ。山陰の旅にもかかわらず、サンライズを岡山で降りるとはなんとぜいたくな旅だろう。
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