手間をかけて“心に残る”旅を企画 「鉄旅オブザイヤー」優秀ツアーとは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
旅行会社が開催した「鉄道好き企画旅行」のコンテスト「鉄旅オブザイヤー2017」。今回は審査員を務めた筆者が、受賞作品や受賞しなかった優秀作を紹介する。
杉山賞(笑)を2つ
最後に、私が注目したにもかかわらず選外となってしまった作品を挙げる。せんえつながら「杉山賞」だ。ただし副賞はない。
『九州鉄道コンチェルト 第7楽章 〜九州縦断!変貌するキハ47が魅せるレトロフューチャーの章〜2日間』(クラブツーリズム)
「キハ47」が分かる人に贈る乗り比べツアー。キハ47とは普通列車用のディーゼルカーだ。しかし、JR九州など各地で観光列車の改造のタネ車として使われ、多彩な列車が走っている。それを乗り比べようという趣旨の旅である。行程は2泊3日。JR九州の観光列車「かわせみ やませみ」デビューがきっかけで作られた。
東京から飛行機で鹿児島へ。ここで「指宿のたまて箱」に乗るかと思えば、バスで枕崎へ連れて行かれ、普通列車に乗る。まずは改造前、普通列車として走るキハ47を体験してもらおうという趣向だ。指宿から「指宿のたまて箱」、嘉例川駅を訪問して肥薩線の普通列車に揺られ、くま川鉄道に乗って、寝台列車ホテル「ブルートレイン多良木」に泊まる。翌日は「かわせみ やませみ」に乗り、新幹線と特急かもめに乗り継いで長崎へ。「JRKYUSHU SWEET TRAIN『或る列車』」に乗り、長崎から空路で東京に戻る。
キハ47の普通列車、初代観光列車、最新観光列車、豪華観光列車を乗り継ぐ。クロスシート、ワンマン運転の車両が、観光列車としてどのように変貌していくか、じっくりたどれる。締めくくりが金色の「或る列車」だから、キハ47の出世コースをたどる旅になっている。価格は7万5000円。「或る列車」が含まれるだけに高額だけど、各列車をデザインした水戸岡鋭治氏が同乗して解説してくれるなら、10万円でも参加者はいるだろう。
『横浜市立小学校連合 平成29年度日光修学旅行』(JTB)
一般の人は参加できない、横浜市の小学生のための旅。ちょっと地味な企画だけど、横浜市内各地から日光へ向かう修学旅行専用列車だ。1本の列車に4〜5校が相乗りする。約50年も続いているとのことで、横浜市出身の方はご存じかもしれない。横浜〜日光間は4時間以上。何もしなければ、同じ学校内の児童だけで固まっている。
一生の思い出の修学旅行で、せっかく乗り合わせたからには、なにか思い出になることを提供したい。そこで、車内放送を使って、各小学校のアピールタイムを設け、交流する場面を提供しているとのこと。
審査員としては自分で乗れないし、子どもたちは鉄道趣味とは関係なく乗せられてしまう。どうにも点数の付け所がなかったけれど、これも旅行会社ならではスタイルだ。良い試みだと思う。
この企画は50年以上も続いているそうで、これからも続けて欲しい。修学旅行の列車の旅が楽しかったら、大人になっても鉄道の旅を好きでいてくれるかもしれない。
インターネット通販の普及で、誰もが自分好みの旅を作れる時代になった。そんな手軽さの一方で、きちんと手間をかけた企画旅行の魅力は大きい。旅行業界に限らず、何でも手軽に済ませようとして魅力を失い、残念に終わる商品を見かける。ネットは便利。手間も省ける。しかし、良いものを売ろうと思ったら、知恵と手間をきちんとかけたい。「鉄旅オブザイヤー」の受賞作品から、そんな教訓を得た気がした。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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