資金調達の「常識」が変わろうとしている:財務特集スタート(3/5 ページ)
資金調達を巡るパラダイムシフトが起きている。背景にあるのは、金融とITを結び付ける新しいテクノロジーの台頭である。資本は経済の原動力であり、その流れが変わるということは、ビジネスの仕組みそのもにも影響が及ぶ。新しい資金調達の手法やその可能性、そしてリスクについてまとめた。
資金調達と新規事業の立ち上げをセットで実現
米国では、トークンは株式と見なされており、法的にも従来の増資に近い手続きが必要となっている。日本ではトークンの販売と考えた場合には増資には該当しないとの見解が多いようだ。
メタップスがICOを実施した際には、トークンは収益として扱われている。収益認識するタイミングが将来になることから損益計算書(P/L)ではなく、貸借対照表(B/S)の負債(繰延収益)に計上された。税務上、どのような扱いになるのかについては、当局との交渉次第ということになるだろう。
新しい手法なだけに、既存の枠組みとの調整は難航する可能性が高い。にもかかわらず、ICOにチャレンジする企業が増えているのは、従来の資金調達にはないメリットが存在するからである。それは資金調達と新規事業の立ち上げをセットで実現できることである。
ICOにおいて重要なポイントは、資金調達と、新しいサービスの立ち上げという2つのプロジェクトが、仮想通貨という1つの技術で統合されている点である。つまり、仮想通貨を活用すれば、場合によっては資金調達と新規事業の立ち上げを同時に実現できてしまうのだ。
1つの例だが、ICOを活用すれば、メディア企業がトークンを使った新しい有料課金モデルを構築することも不可能ではないだろう。
企業側は、払い込まれた資金をもとに新しい有料サイトを立ち上げ、トークンを引き受けた利用者はページごとに、ごくわずかのトークンを支払って有料ページを閲覧できる。このサイトの人気が高まれば、トークンの価値は上がり、トークンの保有者はより多くのコンテンツを閲覧できる。一方で、企業側はトークンを市場で売却することで収益化が可能となる。
全てがうまく回り始めれば、という条件付きの話だが、理屈の上ではこうしたスキームが成立してしまう。これまで資金調達と新規事業の立ち上げは別々の業務だったが、新しいスキームでは、両者は渾然一体となっているのだ。
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