なぜメルカリはホワイトな労働環境をつくれるのか?:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
メルカリの福利厚生がホワイトすぎると話題だ。多くの日本企業は働き方改革を実践するため、残業時間の規制などに躍起になるが、根本的な誤解も多い。メルカリの取り組みを知ることで働き方改革の本質が見えてくるはずだ。
高収益を実現することが最も大事
他の制度も同じである。働き方改革を実現するには生産性を上げることが重要である。生産性は企業が生み出す付加価値を労働時間で割って算出する。つまり生産性を上げるには、付加価値を上げるか、労働時間を減らすしかない。
だが現実には、労働時間の削減には限度があり、一定以下に減らすことは不可能である。つまり簡単な数学の問題として、生産性を上げるためには付加価値の増大が必須なのである。企業の付加価値を会計上の具体的な数字に置き換えた場合、それは売り上げ総利益(粗利益)となる。
つまり、もうかる製品やサービスを提供できなければ、そもそも働き方改革などあり得ないのが偽らざる現実なのだ。実際、先進諸外国の労働生産性は日本の1.5倍から2倍も高いが、多くが労働時間要因ではなく、付加価値要因である。
確かに欧米企業の平均労働時間は日本と比較すると短いが、彼らの生産性が高いのは、労働時間を削減したからではない。企業がもうかった結果として、高い生産性と労働時間の短縮がもたらされているにすぎない。労働時間の短縮は、付加価値が上がったことの結果なので、これを取り違えてしまうととんでもないことになってしまう。
もうかる企業を作れるかどうかは、全て経営者の手腕にかかっている。経営者はこうした責任を追っているからこそ、高い報酬や社会的地位が約束されている。逆に言えば、付加価値の高い経営を実現できない経営者はトップに立つ資格はない。
日本企業の中には、単なる年功序列の延長で経営者になった人物が少なからず存在しているが、こうした人材が、マネジメントの質を向上させることは難しい。結局のところ、働き方改革は、全て経営の問題なのである。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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