センベロの王者 「晩杯屋」を創業者が手放したワケ:長浜淳之介のトレンドアンテナ(後編)(4/5 ページ)
わずか10年で東京を代表する立ち飲みチェーンに成長した「晩杯屋」は、丸亀製麺を展開するトリドールホールディングスに買収された。なぜ、自力での成長を諦めたのだろうか。
多店舗化の壁
井戸氏は「月刊食堂」(柴田書店刊)16年11月号で晩杯屋の展開について興味深い発言をしている。
「(晩杯屋は)現実には人材や物件の確保がネックになってチェーン化が思うように進んでいなかった。それでうちが加盟店開発を担えば、もっとスピーディに多店化できるんじゃないかと考えたわけです」
井戸氏は現状では晩杯屋が100店を出店するのも難しいとし、立地戦略の変更を求めている。
「いちばんのネックは物件ですよ。晩杯屋の適正規模は10〜15坪で、しかも1階の路面が望ましい。この条件がそろえば無類の強さを発揮するフォーマットですが、そういう物件は争奪戦が最も激しいわけです。逆にいま空いているのが空中階の中規模物件。ここで収益の上がる仕組みをつくることで急成長したのが相席屋であり、鳥貴族さんでしょう」
井戸氏の説には一理ある。路面へのこだわりを捨て、家賃が割安のビル空中階に出店する立地戦略に変更したことで、大阪郊外ローカルの安居酒屋だった鳥貴族は、東証1部上場にまで上り詰めた。晩杯屋が飛躍するためには「鳥貴族化」が必要ということだ。
しかし、金子氏は井戸氏のハイエナ理論に納得していなかったのではないか。仮に空中店がどんどん増えても、FC店を束ねる本社の人材に関する不安は依然として残るのである。
また、金子氏は晩杯屋の運営を通してマネジメントスキルを磨いたかもしれない。しかし、何十店、何百店を統率するには、大局を見る別の能力が必要となる。
金子氏自慢の仕入れる力も、業容が拡大すれば、スケールメリットによってやがて代替されるものだ。会社が大きくなれば、仕入れる力に特化した金子氏の存在意義がなくなる。その矛盾を井戸氏に見透かされ(恐らくは自らも自覚し)、M&A仲介会社に登録した。そして、トリドールの粟田貴也社長に完璧なまでに喝破されて、軍門に下ったのだろう。
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