ぼくがダメ社員を脱却し、名プロデューサーになれた理由:人生やらなくていいリスト(2/3 ページ)
筆者の前職はレコード会社勤務のアーティストプロデューサー。絢香、Superfly、平井堅、CHEMISTRY、河口恭吾などのアーティストを手掛け、CDの累計売り上げ2000万枚という実績を残すことができた。けれども30歳になるまではまったくのダメ社員だったという……。
自分をさらけ出してもいい
長年苦しみ続けた人間嫌いが直ってきたのは、30代半ばくらい。
20年以上にわたり、プロデューサー、友人として、たくさんの音楽アーティストたちと時間をともにした経験から、もし彼らを、ひとことで表現してほしいと問われたら、迷わずこう答える。
「好きなこと、やりたいことを探求し、“自分らしく生きること”を追求し続けている挑戦者」
音楽に限らず、映像や写真、絵や言葉といった芸術を通して表現活動をする人は、当然、全員がアーティストということになる。たとえ芸術に従事していなくても、この世に生を受けて、「自分の人生を生き、人生というキャンバスに、自身の意思で絵を描こうとしている人」は、職業、性別、年齢、人種に関係なく「誰もがアーティスト」なのだ。
つまり、「自分らしさを追求する人はすべてアーティスト」。これが、この本を通して、ぼくが本気になってあなたに伝えたいことだ。
ではどうすれば、「自分らしく」生きられるのか? ありのままの自分を、できる限りさらけ出すことが、その第一歩となる。
「怖い?」「恥ずかしい?」
その気持ちはよく分かる。それができない理由は、ぼくがいちばんよく知っている。なぜなら、ぼく自身が、幼少期から30代までずっと人間嫌いで、自分をうまく出せず、40代後半のいまでさえ、素の自分を表現するには大きな勇気を要するからだ。
ずっと本当の自分を隠していたぼくが、自分をさらけ出す「小さな勇気」を少しずつ、少しずつ、もてるようになったのは、レコード会社プロデューサー時代に、いつも身近に存在した音楽アーティストたちのおかげなのだ。
人は「ありのまま」でいる時こそが、他人には「いちばん魅力的に見える」ということを、彼らに教えてもらった。そして、人は、すべてをさらけ出している瞬間こそが、「もっとも美しい状態」であることに、気付くことができたのだ。
もっと言うと、ぼくらと彼らの最大の差は、才能ではなく、「自分をさらけ出す勇気の大きさ」ということ。いわば、音楽アーティストの活動それ自体が、ありのままをさらけ出す行為とも言える。
自分に自信がないから、そんなことはできないって? 驚くかもしれないが、ぼくが知る彼ら全員が、自分に自信なんてものはもっていなかった。だから自信なんてなくていい。他人に言うには恥ずかしいような、愛する人のことや、大切にしている想いを歌詞にし、メロディに乗せ、歌う。苦しくて、切なくて、頭では割り切れない複雑な感情を、恥じることなくそのまま表現する。そして、たくさんの人の前で、文字通り全身で、すべてをさらけ出してパフォーマンスする。
ちなみに、ぼくがプロデュースしたアーティストは、ロック、R&B、ポップス、フォーク、ヒップホップ、クラブミュージックと、ジャンルはバラバラ。でも実は、ぼくなりの「絶対に譲れない共通点」があったのだ。
「その歌声(声質)に、心は、体は震えるか」
いちばん最初に、彼らのデモ音源やライブを聴くとき、ぼくがフォーカスするのはこの1点のみ。歌のうまい下手、音楽性、歌詞の感性、メロディセンス、外見など、多くのプロデューサーが気にする点は、いつも二の次だった。
これらの要素も重要だが、後でなんとでもなる。歌い続ければ必ずうまくなるし、最新機材を使えば、ボタン1つで音程の修正が可能。曲を書き続ければ作詞・作曲は上達するし、プロのビジュアルチームの力で、「その人らしさ」を追求すれば、容姿も、必ずブラッシュアップできる。
ただ、「歌声」のみは、どうしようもないのだ。ぼくは、この変えようのない「声」を音楽アーティストにおける「絶対個性」と呼んでいる。最新テクノロジーの機材を通して、どんなに加工しても、オリジナルの声よりは必ず劣化してしまう。なにより「歌が伝わらなくなる」のである。
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