登山家・栗城史多さんの死の意味を問う 冒険家の阿部雅龍さん:「美談」で片付けられないわだかまり(2/4 ページ)
登山家・栗城史多さんの死に冒険家・阿部雅龍さんがざらつく思いを語った。周囲の期待に応え過ぎたかもしれないとみる一方、「責任はあくまで彼自身にある」と話す。
「トレーニングの回数を増やした方が……」
――では、なぜ栗城さんについては違う思いを抱いたのですか。
僕ら登山家、冒険家の間ではずっと彼を危惧する声があった。事故死について聞いた時、そうなってほしくはなかったが正直「やっぱり」と思った。彼の挑戦したエベレストのルートは、トップクラスの登山家でもできないような難しいもの。彼に刺激を受けて山に挑戦する人が現われるのはいいことですが、彼の死は業界の誰もが望んでなかった。
彼は、難しいルートをどんどん攻めていった印象があります。もうちょっと(別の)山に行く回数やトレーニングを増やした方が良かった。プロの登山家は、登山ガイドをしながら1年のほとんどを山に行く生活です。私もトレーニングを重視しているし、人力車の仕事もして体を鍛えている。
ひょっとすると、彼は登山家になること自体が夢ではなく、夢を他人と共有するために登山をしていたのかもしれないと思います。彼のファンはたくさんいるのだから、もっとルートを簡単にしたり、さらには「挑戦するのは山じゃなくていいですよね」と言ってしまえばよかった。そう言ってもファンは怒らなかったと思います。でも、彼自身の責任感もあってそう言えなかったのかもしれない。8度目のエベレストへのチャレンジだったということもあるのかなと思います。
――登山や冒険の世界で栗城さんの死は今後、どう捉えられるのでしょうか。
登山の世界では美談にはならないと思います。彼の行動は普通の登山家とは違っていた。トップクラスのクライマーが鍛え上げて挑み、その結果亡くなったらそれはそれでその人の「エンディング」になると思います。あれだけ山を登った人が最期も山で……というのは1つの人間のストーリーです。しかし、栗城君自身があの死を望んだとは思えない。
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