登山家・栗城史多さんの死の意味を問う 冒険家の阿部雅龍さん:「美談」で片付けられないわだかまり(3/4 ページ)
登山家・栗城史多さんの死に冒険家・阿部雅龍さんがざらつく思いを語った。周囲の期待に応え過ぎたかもしれないとみる一方、「責任はあくまで彼自身にある」と話す。
すべての責任は登山家個人にある
僕は20代のころ、冒険の世界の中で死ぬのがいいと思っていました。20代で登山中に亡くなった友人も何人かいます。命を落とすまで取り組んだ美しさ、というものも感じる。だからこそ、彼のチャレンジに多くの人が感動した。指を9本なくした後にエベレストにまた挑む。よほど勇気がないとできない。彼も応援してくれた人の気持ちに応えようとしていたのかもしれません。
――冒険家や登山家の世界ではそういった支援者との関係性も大事です。
そうですね。僕もスポンサーの企業からカメラや時計などの機材を提供してもらい、企業やクラウドファンディングを通じて資金を調達し、冒険に臨んでいます。11月の南極行きでは1250万円を集めるのが目標です。南極への交通費だけで1000万円以上かかる。冒険はそういった支援者の方々に支えられています。
ただ、南極行きでは当初計画していたルートを最近、変更しました。もともと「ノーマルルート」と呼ばれるコースを想定し、単独無補給での日本人初踏破を目指していましたが、別の人が達成したのです。周囲からは変えたことについていろいろ言われましたが、「わがまま」を貫きました。
プロの冒険家では往々にしてよくあるのですが、いい人が多い。周りの目を気にして全力で応えようとする。日常生活では全力で周囲の期待に応えても死ぬことはあまりありませんが、冒険では死にます。
――栗城さんも周囲の期待に応えすぎた面もあったのでしょうか。
ここだけは冒険家として言っておきたい。すべての責任は冒険家や登山家個人に帰結します。命の駆け引きは自分でやらなくてはならない。今回、責任はスポンサーや支援者にあると言う人もいますが最後は彼自身の責任だと思う。応援した人に責任はない。
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