近鉄のフリーゲージトレインは「第2の名阪特急」になる?:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/6 ページ)
長崎新幹線のフリーゲージトレイン(軌間可変列車)採用は消えたが、近鉄が開発に積極的な姿勢を見せている。新幹線でなくても、この技術は役に立つ。なぜかというと……
近鉄がフリーゲージトレインに取り組む理由
新幹線のフリーゲージトレインが行き詰まっている中、近畿日本鉄道が名乗りを上げた。6月22日、同社の総合研究所にフリーゲージトレイン開発推進担当役員を就任させる。国交省とも連携する方針とのこと。採用路線として、橿原線と吉野線の直通列車が上がっている。近鉄は大阪・京都・奈良・名古屋を結ぶ路線網と、大阪阿部野橋・吉野を結ぶ路線網で軌間が異なる。フリーゲージトレインを走らせれば、全路線を直通する列車を設定できる。新幹線の採用が消えたいま、長崎の敵を吉野で討つという形だ。
近鉄は大手私鉄で路線距離の合計が最も長い。ちなみに2位は東武鉄道、3位は名古屋鉄道だ。巨大な路線網が出来上がった背景には、過去に鉄道事業者の合併、買収を繰り返した歴史がある。その結果として、自社の路線の規格を統一できない。これはよくある話で、例えば京王電鉄は京王線と井の頭線で軌間が異なるし、阪急も京都線系統は他の路線と車体のサイズが異なる。
近鉄の場合は、多くの路線が新幹線と同じ軌間、標準軌だ。これは路面電車から始まった歴史による。しかし、南大阪線と吉野線は狭軌である。吉野線は吉野鉄道が軽便鉄道として建設され、吉野口で国鉄和歌山線と線路をつなぎ、貨車を直通させるための路線だった。お花見の時期は国鉄から吉野へ直通する旅客列車もあったという。
南大阪線・道明寺線・長野線は大阪鉄道が開業した。御所線は大阪鉄道の子会社の南和鉄道による。大阪鉄道は狭軌を採用しており、後に吉野線と直通運転する。これらの路線は後に近鉄の前身の大阪電気軌道に買収された。こうして、南大阪線・吉野線系統は近鉄の広大な路線網から独立した運行系統となった。
近鉄は路線網が広大なだけに、大阪・京都・名古屋の三大都市と、京都・奈良・伊勢・吉野など観光名所に恵まれている。吉野線は2004年にユネスコ世界遺産に指定された「紀伊山地の霊場と参詣道」へのアクセスルートとして、訪日観光客からも注目されている。近鉄では南大阪線と吉野線を直通する特急「さくらライナー」と、観光列車の「青の交響曲」を走らせている。フリーゲージトレインを実用化すれば、橿原線を経由して、大阪・京都・名古屋から吉野へ向けて特急列車を運行できる。世界遺産へ、新幹線の駅から直通列車を運行できるわけだ。
関連記事
- フリーゲージトレインと長崎新幹線の「論点」
長崎新幹線(九州新幹線西九州ルート)の混迷が続く。JR九州はフリーゲージトレインの導入困難を公式の場で表明した。未完成の技術をアテにしたうえ、線路の距離に応じて地元負担額を決めるという枠組みが足かせになっている。実はこれ、長崎新幹線だけではなく、鉄道路線の建設・維持に共通する問題だ。 - 新幹線台車亀裂、川崎重工だけの過失だろうか
山陽新幹線で異臭を発した「のぞみ34号」について、東海道新幹線名古屋駅で台車に傷が見つかった。JR西日本の危機認識、川崎重工の製造工程のミス、そして、日本車輌製台車からも傷が見つかった。それぞれ改善すべき問題があるけれども、もう1つ重大な問題が見過ごされている。「納品検査」だ。 - 北海道新幹線札幌駅「大東案」は本当に建設できるか
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、JR北海道が土壇場で繰り出した「大東案」で関係者が合意した。決め手は「予算超過分はJR北海道が負担する」だった。これで決着した感があるけれども、建設業界筋からは「本当に作れるか」という疑問の声がある。 - 新幹線札幌駅、こじれた本当の理由は「副業」の売り上げ
JR北海道は、当初の予定だった現駅案を頑固に否定し続けた。主な理由は「在来線の運行に支障が出る」「プラットホームの広さを確保したい」としてきた。しかし、真の理由は他にある。「エキナカ、エキシタショップの売り上げが減る」だ。JR北海道の10年間の副業を守るために、新幹線駅は未来永劫、不便な駅になろうとしている。 - 東京都の「選ばれし6路線」は実現するのか
東京都は「平成30年度予算案」に「東京都鉄道新線建設等準備基金(仮称)」の創設を盛り込んだ。2016年に交通政策審議会が答申第198号で示した24項目のうち、6路線の整備を加速する。6路線が選ばれた理由と、選ばれなかった路線を知りたい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.