もはや融資は銀行の専売特許ではない 新型融資ビジネスが急拡大する背景は?:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
フィンテックを活用した新しい融資ビジネスが急拡大している。従来型の融資に頼る銀行のビジネスが危うくなるというのは以前から指摘されてきたが、他業種からの進出は予想以上のペースで進んでいるようだ。
事業者のリスクがそれほど高くない理由
こうした一連の融資ビジネスにおけるリスクはどの程度なのだろうか。決算書といった基本資料がない中で融資を実行するので、資金を提供する事業者は相応のリスクを負うことになるが、外部からイメージするほど危険なビジネスではないと筆者は判断している。理由は2つある。
ひとつは金利の高さである。一連の融資ビジネスの金利は高く、8%から15%程度の金利を設定する事業者が多い。当然、この金利は銀行と比較するとはるかに高いが、利便性の高さや審査時間の短さなどを考えると、事業者にとっては金利を払っても、このサービスを利用するインセンティブがある。金利がこれだけ高ければ、仮に貸し倒れなどが発生しても、何とか損失をカバーできるだろう。
もうひとつは融資期間である。事業者の中には1年など長めの融資に応じるところもあるが、1カ月や半年というタームの短期融資も多い。ビッグデータで直近のビジネス状況は把握しているので、短期融資に限定することで、大幅にリスクを軽減できるはずだ。
ただ、このビジネスは参入障壁がそれほど高くないため、融資システムを開発できる能力があれば、異業種からでも容易に進出できる。
事業者の数が増えてくると、金利の引き下げ競争が始まり、長期融資への対応に舵を切る事業者も出てくるかもしれない。そうなった場合、事業者が負うリスクは上昇せざるを得ない。早い段階である程度のシェアを確立し、規模のメリットを追求できた事業者が生き残る可能性が高いだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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