なぜ今「ペーパーレス」が再注目されているのか?:働き方改革の文脈で(3/5 ページ)
1970年代に生まれた「ペーパーレス」。以来、ほとんど進展していないように思われるが、実は今注目を集めているのをご存じだろうか。詳しくみていきたい。
「紙主導ビジネス文化」からの脱却
かつて、ペーパーレスが普及しない理由の一つに、紙を利用するワーカーの意識改革が進まないという問題が指摘されていた。
紙ベースによるビジネスが最良の形であり、デジタル文書は使い勝手の悪い代替品であるという考え方。これを「紙主導ビジネス文化」と呼ぶことにする。
これまでのペーパーレス化の普及を阻害していた一因は、「紙主導ビジネス文化」にはなるべく手をつけずに、紙をデジタル文書に置き換えようとしていたことにあるのではないだろうか。紙をなくすなら、仕事の考え方や進め方も、それに合わせて改革しなければならないのだが、そこには変革の手が回っていなかったのだ。
その点で、昨今の働き方改革という大きな流れのもとに、ワークスタイル改革に軸足を置いたペーパーレスは、これまでと違ってオフィスに根づく可能性が高い状況にあると考えられる。
よく耳にする「やはり紙でなければ」という声は、従来の「紙主導ビジネス文化」が前提になっていることが多く、先入観さえ取り払うことができれば、本質的には問題がないことのほうが多い。
最も根強いと思われるのは、「PCやタブレットの画面は見にくいし、一覧性が低い」という意見だ。
これは、文書のフォーマットを従来の縦のA4用紙をベースにしているからだ。「A4縦」をやめ、横位置のフォーマットに限定して、文章や図版を立体的にまとめるようルールを改変してしまえば、視認性は大きく改善される。電子データであれば、特定のページへのジャンプや検索、文字の拡大なども可能だから、うまくなじむことができれば、より大きなパフォーマンスを発揮できる可能性があるのだ。
「書き込みができない」という指摘もあるが、メモを別途用意すれば済むことだし、直接ペンで画面に書き込めるデバイスやソフトなども多く登場している。
「そうはいっても、まだまだ紙での保存を義務付けられている書類がたくさんあるから、時期尚早」という声もある。電子化保存が許可されていない文書がいまだにあるのは事実だが、少なくとも社内での会議や検討に関わる文書で、電子化が禁止されているものはないだろう。
法令改正や省令によって、保存できる資料の範囲は確実に広がっている。また、電子帳簿保存法の改正によって、2016年1月から、すべての契約書や領収書の電子保存が2017年1月からは領収書や請求書をスマートフォンで撮影して電子化する方法も認められるようになっているのだ。保存方法の緩和は急速に進んでいる。
「紙でないと決裁時に持ち回れない」という声も根強くあるが、本誌の読者であれば、そもそも「持ち回る」という決裁プロセス自体が時代遅れだと反論できるはずだ。
このように、いよいよ「やはり紙でなければだめ」という先入観を見直す時期が来ているのである。「紙主導ビジネス文化」から一歩踏み出してみてどうだろうか。その先に、効率的なワークスタイルが広がっている可能性がある。
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