沖縄のIT産業は生まれ変われるのだろうか?:失敗を繰り返すな(3/4 ページ)
観光とともに沖縄経済を支える基幹産業がITだ。年間売上高は4200億円を超える。今年7月には官民共同で新たな事業がスタートし、機運が高まっている。しかし一方で、沖縄のIT産業にはさまざまな課題があるのも事実である。
目指すは深セン
では、ISCOでは具体的に何をするのだろうか。
ISCOが重点領域に掲げるのは、「AI(人工知能)・IoT」「サイバーセキュリティ」「ツーリズムテック」「FinTech」「ロボティクス」などだ。
例えば、FinTechにおいては、キャッシュレス決済を浸透させることで、顧客の購買データ分析によるマーケティングの高度化や、現金強盗の犯罪減少などが可能になるという。ツーリズムテックについては、VR(仮想現実)やAIなどを活用し、観光客がより快適な観光をできるようにすることで、リピーターの増加につながると見ている。ISCOがハブとなって、多様な企業や行政などとパートナーシップを組み、新たなビジネスを仕掛けていきたいとする。
とりわけサイバーセキュリティに関して、中島理事長は意欲を見せる。
いまやサイバー犯罪は世界経済に深刻な脅威をもたらせている。セキュリティ大手の米McAfeeと米CSIS(戦略国際問題研究所)が今年2月に発表したレポートによると、サイバー犯罪が世界経済に与える損失は年間約64兆円に上り、年々増加しているという。日本でも多くの企業や個人が日々サイバー犯罪に巻き込まれている。
それに対応するようなサイバーセキュリティ特区を沖縄に設置したい考えだ。具体的には、国内外のITセキュリティ企業や専門家、研究者などが集まり、技術開発や専任捜査、高度なIT知識を持つ善意の技術者であるホワイトハッカーの育成など行う。「日本さらには世界でも最先端を行くサイバーセキュリティの拠点にしたい」と中島理事長は構想を語る。
沖縄が目指すデジタル社会のモデル都市は、中国・深センだ。ここにはTencentやDJIといった中国の大手テクノロジー企業が集まるほか、自動運転や無人コンビニ、キャッシュレス決済など、新しいイノベーションが次々と起きている。それを可能にするのは、さまざまな実証実験ができる環境である。
沖縄も日本の中で実証事業を推し進める場として、新しいアイデアなどをどんどん社会実装していく。さらにはそこで培った技術やサービスを、アジア諸国をはじめ海外に展開していく。それが日本経済の閉そく感を打破する1つのきっかけになる。中島理事長はそう主張する。
それを加速すべく、ISCOの人員を現在の25人程度から2〜3年後に70人規模にすることを計画する。また、当面は県からの受託事業が収益の柱だが、5年以内に民間主導での事業展開を目指す。
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