沖縄のIT産業は生まれ変われるのだろうか?:失敗を繰り返すな(4/4 ページ)
観光とともに沖縄経済を支える基幹産業がITだ。年間売上高は4200億円を超える。今年7月には官民共同で新たな事業がスタートし、機運が高まっている。しかし一方で、沖縄のIT産業にはさまざまな課題があるのも事実である。
沖縄IT産業の厳しい現実
このように、新たな機軸を打ち立てようとするISCOには関心が集まるが、沖縄のIT産業を顧みると、その取り組みは必ずしもすべてがうまくいっているわけではない。
2016年度の県内IT生産額(売上高)は4283億円で、11年度の3482億円から約23%増と、産業規模は順調に伸びているが、内訳をみると、ソフトウェア開発、コールセンターやBPOセンターなど、受託業務が数多くを占めている。加えて、約3分の2が県外企業による事業であり、地域にカネと技術力が落ちるような、本質的な地場産業の育成ができているとは言い難い。
例えば、沖縄に立地するIT関連企業の雇用者数は17年度に2万9379人となったが、うち1万8268人がコールセンター勤務である。雇用創出という観点では、企業誘致は功を奏しているが、この業務スキルが果たして沖縄のIT産業の将来的な発展に結び付くのかという点では大いに疑問だ。
また、これだけ受託事業が沖縄に増えた経済的な事情に関して、ニアショア(近距離での外注)先として国内の他の地域と比較した場合、割安な人件費であるというコストメリットが大きかった。このため、沖縄に発注される多くの仕事が下請け的であるわけだが、そこからの転換を図れず、いまだに受託ビジネス依存から抜け出せないでいる。
さらには、仮に海外を含む別の地域がより安い人件費などを打ち出してきたら、取って代わられ、企業は沖縄から撤退する可能性も十分にある。そうなれば多くの人たちが一気に働く場を失ってしまうのだ。
沖縄では古くから「自立型経済」が叫ばれているが、まさにIT産業も同様で、自らがビジネスを生み出すような事業基盤をつくる政策がいっそう強く求められているのである。
沖縄のIT産業振興策には国の補助金である沖縄振興特別推進交付金(一括交付金)だけで、年間数億〜数十億円の予算がついている。しかしながら、この活用に関しては不明瞭な取り組みや失敗施策も少なくない。
その一例が、沖縄データセンター(ODC)である。12年ごろに構想が具体化した公設民営の大規模クラウドデータセンターで、このための資金として総事業費73億円(うち国費59億円)が投じられている。このデータセンターの運営を任されたのが、オーシーシー、リウコム、おきぎんエス・ピー・オーの県内IT企業3社で、12年7月にODCという会社を設立した。しかし、このクラウドデータセンターは15年4月に開業後も収益が伸びるどころか、多額の赤字を垂れ流して、ODCはわずか3年で倒産した。負債額は10億2400万円に上る。業界関係者によると、ハイスペックな設備による高額なサービス価格体系などによって営業に苦戦し、データセンターの入居者をなかなか獲得できなかったようである。
データセンターの倒産というのは非常に珍しく、企業の信用調査などを行う東京商工リサーチの情報部担当者は「今まで聞いたことがない。初めてのケースに近いのでは」と話す。
補助金事業によるこのような失敗は氷山の一角にすぎない。また、沖縄に限った話ではなく、ほかの地方にも同様の“惨劇”は掘ればいくらでも出てくる。しかしながら、こうした過ちを繰り返すことは、言うまでもなく税金の無駄遣いである。わが国にとって損失でしかない。
沖縄、ひいては日本経済の成長につながるような、目に見える具体的な成果をISCOには期待したい。
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