ZOZO・前澤社長が月へ 宇宙旅行の投資対効果は?:“いま”が分かるビジネス塾(4/4 ページ)
ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」運営企業の前澤友作社長が月旅行計画を明らかにした。費用は公表されていないものの、数人で数百億円となる見込みだ。こうした宇宙旅行の投資対効果はどの程度と考えればよいのだろうか?
ZOZOの置かれた現状を考えると安い買い物?
現在、前澤氏はZOZOの株式を個人名義で37.94%保有している。同社の時価総額は1兆円ほどなので、個人名義だけで4000億円近い資産を保有している。仮に株式の売却で数百億円を調達した場合でも、今の時価総額であれば株価にはそれほど影響を与えずに済むだろう。
前澤氏が民間人初の月旅行を実現したとなれば、極めて大きな宣伝効果となるのは間違いない。しかも前澤氏の場合、著名なアーティストを連れて月に行くので、旅行後に作品が発表されることで、さらに話題が継続する。
一方、前澤氏が運営するZOZOTOWNは、経営的に重要な局面を迎えている。
ZOZOTOWNは、顧客の体のサイズを自動的に採寸する「ZOZOSUIT」の配布をスタートし、自社ブランド商品の展開に乗り出しているが、この動きは、アパレル業界では、ユニクロに対する事実上の宣戦布告と認識されている。
同社はこれまで自社では商品を持たず、ECサイトの運営に特化することで高い利益を確保してきた。自社ブランド進出は、ユニクロを超える千載一遇のチャンスだが、同時に高収益体質を失うリスクも抱える。今回の月旅行は同社のイメージ戦略にとって重要な意味を持っており、これがうまく機能するなら数百億円は安い買い物と言えるだろう。
かつて宇宙空間の滞在には、無重力を利用した新しい素材や薬品の開発など、工業的な成果が期待されていた。だがIT技術の進歩によって、実際に無重力空間に行かなくても多くのシミュレーションが実施できるようになり、現在では宇宙旅行に対する工業的なニーズはあまりないとの結論に至っている。
工業的な意味での宇宙ビジネスは、IT化によって妨げられてしまったが、前澤氏のような人物が宇宙旅行に行きたがるのは、まさに社会がIT化した結果であるとも言える。少々逆説的だが、宇宙開発のオープン化と社会のIT化にはやはり密接な関係がありそうだ。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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