南極に挑む冒険家・阿部雅龍さん 命がけで「独りの自由」を貫く訳:支援者集めもセルフプロデュース(2/3 ページ)
冒険家・阿部雅龍さんが11月、南極の単独踏破に挑む。時には営業マン張りのPR力やスピーチで約1250万円の費用集めに奔走。資金集めも冒険もあくまで行い1人で自由と責任を抱える。
「テントを飛ばされただけで死ぬ」南極の単独遠征
企業や個人からの支援を募るために阿部さんは営業マン顔負けのアプローチ方法を磨いてきた。支援をお願いしたい会社の代表電話に掛けると、まずは広報につないでもらい担当者の名前を聞く。その人にはメールでなく手書きの手紙を送る。その後、「広報の〇〇さんをお願いします」と電話すると話を聞いてもらいやすくなるという。「(紙に印刷された)ダイレクトメールなら無視されやすいが、手書きの封筒なら開けない訳にいかなくなる」(阿部さん)。
30歳くらいのときには自己PRの力を磨くため企業の決算発表用の動画を制作するPR会社でアルバイトした。「僕には地位も肩書もない。話す力がとても大事」とビジネスマン向けの講習会に出たり、人気スピーチフォーラム「TED」やチャップリンの演説風景を見て人に印象に残るスピーチを研究したこともある。
今や支援者は企業にとどまらず個人にも広がる。「定年退職したサラリーマンの方がポンと10万円だしてくれたり、人力車に客として乗ることで支援してくれるファンも少なくない」(阿部さん)。
ただ、他の日本の冒険家や登山家が大口のスポンサーを付けた上で複数人の遠征隊を組むことが多いのに比べ、あくまで単独で冒険も支援者集めもこなす阿部さんのスタイルは少し異端だ。「単独の南極遠征では荷物をできる限り減らす必要がある。予備の装備もなかなか持っていけないためテントを飛ばされただけで死ぬ」(阿部さん)。個人での冒険は危険性も資金の負担も集団より格段に高まる。
しかも、プロ登山家の多くが普段はアウトドアショップの店員や登山ガイドとして生計を立てているのに比べ、阿部さんのもう1つの仕事はフリーランスの人力車夫。秋田大学を卒業後、企業で正社員として働いたことはない。「会社勤めの身で遠征は難しい。僕は冒険のことだけ考えて生きていたい」と、自身の後援会を除き組織には属さない。
関連記事
- 登山家・栗城史多さんの死の意味を問う 冒険家の阿部雅龍さん
登山家・栗城史多さんの死に冒険家・阿部雅龍さんがざらつく思いを語った。周囲の期待に応え過ぎたかもしれないとみる一方、「責任はあくまで彼自身にある」と話す。 - インドでボンカレー、華麗にデビュー!? 大塚食品の挑戦
大塚食品がボンカレーのインド市場開拓に乗り出した。インド人は食の好みが保守的で通常のレトルトは売れないと判断、社員食堂にカレーパンの形で売り込む。 - コナカの「Tシャツのように洗えるスーツ」は、こうして生まれた
株式会社コナカの湖中謙介社長は、「たびたび同じ悪夢を見る」という。連結売上高700億円の企業に成長したのに、なぜ悪夢を見るのか。話を聞いてみると……。 - 「1本3000円」のシャープペンをヒット商品にした、“近寄りがたさ”
ぺんてるが2017年に発売した高級シャープペンシル「オレンズネロ」。1本3000円という価格でも、幅広い層に受け入れられ、ヒット商品になった。何が多くの人の心をつかんだのか。企画担当者の取り組みに迫った。 - ほうじ茶ブーム生んだマーケッター 秘訣は「お茶との恋愛」!?
ほうじ茶ブームを仕掛けたペットボトル商品「加賀 棒ほうじ茶」。誕生の背景には地域に埋もれていた素材を掘り起こし地元企業を説得したマーケッターの「愛」があった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.