すし屋「久兵衛」VS. ホテルオークラ 泥仕合の背後に“下剋上”への脅えと焦り:長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/7 ページ)
高級すし店「銀座 久兵衛」がホテルオークラともめている。背景にあるのは高級すし店とホテル業界の競争激化による地位低下だ。転落しようとしている両者が抱く焦りとは。
久兵衛を押しのけた元弟子の店とは?
さて、新たにオープンする山里には久兵衛の元弟子が創業した競合店が入ることになっているのだが、どの店だろうか。各種報道によると、久兵衛本店と同じ銀座エリアにあるという。銀座エリアで久兵衛を脅かすほどの腕を持つ元弟子の店となると絞られてくる。
それは、「鮨かねさか」と「鮨あらい」(ともに銀座8丁目)、7丁目の「鮨竜介」、1丁目の「すし家一柳」といったあたりだ。また、ホテルオークラ東京のすぐ近くである六本木1丁目には、日本最高の実力があるとされる「鮨さいとう」がある。久兵衛3代目の今井景久氏を凌ぐかもしれぬとも目される職人が、実は1人だけでなく何人かいる。
2000年以降、若手が名店からどんどん独立することで、高級すしの世界は活性化している。大手企業や官庁が不況により高級料亭では接待できなくなり、すし屋を利用するようになったからだ。すしに薫風を吹き込む俊英に対して、のれんが巨大な久兵衛といえども、いつ首を取られても不思議ではないのだ。
海外進出が遅れた久兵衛
鮨かねさかの創業者・金坂真次氏は、久兵衛で10年間修業した後、2000年に独立。現在は、大手町の「パレスホテル東京」(東京都千代田区)、シンガポールの「ラッフルズホテル」と「セントレジス」、マカオのIR施設「シティ・オブ・ドリームズ マカオ」に支店を持つ業界屈指の国際派に成長している。久兵衛には海外支店がなく、明らかに遅れを取った形となっている。
金坂氏はホテルオークラ東京の久兵衛に勤めている時に、歌舞伎界のプリンス・市川海老蔵氏の目にとまり、海老蔵氏御用達のすし職人となった。独立後は海老蔵氏がプロデュースするすし店「真魚(まお)」をオープンした。真魚はテナントとして入っていた「ホテル西洋銀座」(東京都中央区)が閉館したのにあわせて閉店したが、その店を任されていたのが、13年にすし家一柳を創業した一柳和弥氏。一柳氏も久兵衛での修業経験がある。
鮨あらいは鮨かねさかの隣にあるビルで営業しており、店主の新井祐一氏は久兵衛、四ツ谷「すし匠」(東京都新宿区)を経て15年に独立。シャリを大きめにするスタイルは、シャリを小さめに握る今の流れにあえて逆行するもので、昭和のすしにこだわる。
鮨竜介の山根竜介氏は久兵衛、銀座「鮨一」を経て、15年に独立。トリュフ、キャビアなども使う強い創作性で注目を浴びている。
弟子の店は久兵衛を抜いた?
これら新進気鋭のすし店は全て「食べログ」のスコアで4以上を獲得しており、久兵衛本店(3.80)、ホテルオークラ店(3.22)より上位にある(18年11月19日時点)。
また、鮨かねさか、鮨あらい、すし家一柳は18年のミシュラン1つ星獲得店だ。かつて1つ星を取っていたが今は星が消失した久兵衛よりうまいと評価されている。
14年に六本木「アークヒルズサウスタワー」(東京都港区)にオープンした鮨さいとうに至ってはミシュラン3つ星だ。創業者・齋藤孝司氏は久兵衛、鮨かねさかを経て独立した。齋藤氏は若手ながら、安倍総理とオバマ前大統領が会食した「すきやばし二郎」(東京都中央区)の小野二郎氏にも比肩する世界的なすし職人との見方も強い。
確かに久兵衛には歴史があり、格式高く、すしの発展に貢献した。しかし、「もう古い」「もっとうまくて斬新な店が幾つもある」という意見も多い。
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