すし屋「久兵衛」VS. ホテルオークラ 泥仕合の背後に“下剋上”への脅えと焦り:長浜淳之介のトレンドアンテナ(6/7 ページ)
高級すし店「銀座 久兵衛」がホテルオークラともめている。背景にあるのは高級すし店とホテル業界の競争激化による地位低下だ。転落しようとしている両者が抱く焦りとは。
過熱する高級ホテル戦争
パレスホテル東京は国内外の富裕層を取り込むことに成功した。平均客室単価は5万円を超えており、国内ホテルとしては“御三家”を上回る額になっている。16年には日系ホテルとしては初めて「フォーブス・トラベルガイド」で5つ星を獲得し、その状態を3年連続で維持している。
また、老朽化した「グランドプリンスホテル赤坂」を建て替え、16年にオープンした「ザ・プリンスギャラリー東京紀尾井町」(東京都千代田区)は、最低でも1泊6万円からとなっており、強気の価格設定をしている。
つまり、ホテル業界でも近年下克上が起こっており、建て替えを機に実質的な国内最高ブランドの地位も変化してきているのだ。
負かされたホテルオークラ東京は、目と鼻の先にある「虎ノ門ヒルズ」(東京都港区)にある、外資系の「アンダーズ東京」もオープンしているため、その地位をますます脅かされている。
和食を充実させることで、外資にない特徴を出せるため、従来のような久兵衛の看板に頼るような腰が引けた態度でなく、全部直営で責任を持って運営したいのだ。
しかも久兵衛自体が弟子たちの店から下剋上を受けている現状があり、上り調子の新鋭を入居させて勢いをつけたい心情も理解できる。
東京五輪を前に、日本ナンバーワンホテルを決める苛烈な高級ホテル戦争の渦中、久兵衛はあおりを受けて、おいしいかもしれない立地を「一方的に指定され排除された」との理由でみすみす棒に振り、弟子たちの店にも次々と下克上されて落ちぶれ果ててしまうのか。それともアーケード街で頑張って巻き返すのか。裁判と店舗売り上げの行方を見守りたい。
著者プロフィール
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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