リーダーがPCを使わないことがもたらす、想像以上に深刻な事態:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
桜田義孝五輪担当相が「自分でPCを打つことがない」と発言したことが大きな話題となっている。この背後にはもっと深刻な問題が横たわっており、PC操作は氷山の一角でしかないのだ。
流れに追いついていない先進国は日本だけ
実は、こうした流れに唯一、追いついていない先進国が日本であり、そこにはPCがあまり普及していないという現実が深く関係している。
桜田氏はたまたま答弁が下手だっただけで、日本では特に珍しいことではない。先日は経団連会長の執務室に初めてPCが導入されたという驚くべきニュースが世間を騒がせたし(秘書がいるとしてもやはり驚くべきことである)、自民党の石破茂元幹事長は、PCのワープロソフトは操作ミスしてしまうので、「かつてのワープロ専用機をもう一度発売して欲しい」と主張している。著名キャスターの古舘伊知郎氏が、番組中で「パワーポイントが何なのか分からない」と発言し、視聴者を驚かせたこともあった。
子どもの教育環境も同様である。先進諸外国では中高生は、ほぼ全員、スマホに加えてPCも保有しており、授業や宿題もPC使用が前提となるケースが多い。だが、日本の中高生におけるPCの保有率は諸外国と比較して突出して低いことはよく知られた事実であり、カリキュラムもPCやタブレットを前提としたものにはなっていない。
PCの普及率を正確に調査したデータはないが、PCの使用可能年数や販売台数などから筆者が独自に算定したところ、日本は欧米各国の半分から3分の2程度しか普及していない。ちなみに日本の労働生産性は、欧米各国の半分から3分の2程度にとどまっており、単なる偶然かもしれないが、両者の数字は一致している。
この問題が深刻なのは、PCができないことは、単なるPC操作の問題にとどまらず、思考プロセスや行動様式に関係してくる点である。PCができる、できないといった話に矮小(わいしょう)化せず、社会全般の問題として捉えていくことが重要である。そうしなければ、冗談抜きで、日本は本当にガラパゴスな社会に転落しかねない。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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