働き方改革の中で、私たちは何に向き合うべきか 経営学者・宇田川元一さん:組織論、経営戦略論の研究家に聞く(3/5 ページ)
皆が快適に働ける環境を実現するために、企業はどのような組織づくりを目指していけばよいのだろうか? 組織論、経営戦略論を研究する経営学者の宇田川元一さんに聞いた。
他人事の働き方改革=「何もやっていない」
WORK MILL: 物事の相対化によって生まれた「不信」が、昨今の「企業が組織の変革を求められる機運の高まり」につながっている、と見てよいのでしょうか。今まで信じられてきた企業の在り方に疑問を抱く人、あるいは問題点に気付く人が増えてきたと。
宇田川: そうだと思います。旧来的な企業のヒエラルキー(≒階層組織)は、相対化によってうまく機能しなくなっている。そして「じゃあ、これからどんな組織にしていけばいいのか?」という、その先の物語を紡げていない。
WORK MILL: その先の物語は、私たちが主体的に作っていかなければならない?
宇田川: そうなんです。しかし現実では、現場の人間は「経営者が悪い」「上司が悪い」と愚痴をこぼし、上層にいる人間も「現場が悪い」とぼやくだけで、先に歩めていない企業が少なくありません。皆、それぞれの立場で不満が溜まっている。溜めるばかりで、それが語られ、共有されることはないんです。
WORK MILL: 個々の「民主化」が進んでいないのですね。
宇田川: この「皆がそれぞれの立場で不満を溜めている」という構造は、働き方改革の現場にもよく見られます。やれと言われて取り組んではいるものの、現場の人間たちの多くは「残業時間を減らして、リモートワークを増やして、女性管理職を増やすことが、果たして働き方改革なのか?」「これは何のため、誰のためにやっているのか?」と、疑問に思っている。
やらせている側も、もっと上から「やれ」と言われたから、それに従っているだけだったりする。それがどんなに言葉で上っ面を覆い隠しても、実は明確に下にはやる理由を持っていないことが伝わっている。だから、現場レベルでも身の入った取り組みにつながらないのです。
WORK MILL: そういう構造が何重にも重なっていると。
宇田川: ここで問題になるのは、それぞれの立場の人間に「何をしたいのか、組織をどうしたいのか」という問いがないことです。言い方を変えれば、そうした問いを持つことができれば、今は「新しい組織の形」を自分たちで作っていけるチャンスに恵まれた時代です。これまでの組織では上の人間しか持ち得なかった権限が、実質的に情報の非対称性の低下によって、皆に下りてきているからです。
しかし、権限を行使するとなると、そこには責任が生まれます。「やれ」と言われるのはイヤだけど、「じゃあ自己責任でご自由にどうぞ」と言われると、責任を負いたくなくて変革の当事者になることを避けてしまう。人間ってね、ズルいんですよ。時代や社会の変化に、まだ人のマインドがついていけていない側面があるんです。
WORK MILL: 結局、そこで働く人たちの主体性がないままに働き方改革を進めても、それは「やらされている」だけで、何も変わらない?
宇田川: そう、自分の会社のことなのに、他人事のまま数値だけ追いかけて終わってしまいます。「他人事でやっている」とは、「やっていない」のと一緒ではないでしょうか。
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