私たちが対峙するべき「アダプティブ・チャレンジ」とは?:頼りながら、避難しながら、痛みを乗り越えろ(1/4 ページ)
組織論、経営戦略論の研究者である宇田川元一さんへのインタビュー連載の後編では、変化の激しい現代社会に生きる私たちが持つべき「アダプティブ・リーダーシップ」や、一時避難できるサードプレイスの重要性など、未来の組織にまつわるさまざまな話題を紹介する。
宇田川元一(うだがわ・もとかず) 埼玉大学大学院人文社会科学研究科准教授。1977年東京都生まれ。長崎大学経済学部准教授、西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。専門は経営戦略論、組織論。社会構成主義を思想基盤としたナラティヴ・アプローチの観点から、イノベーティブで協働的な組織のあり方とその実践について研究を行なっている
働き方改革がさまざまな場所で叫ばれるようになった今、多くの企業では小手先の対策ではなく「組織自体の在り方の見直し」が問われています。これから私たちは、皆が気持ちよく伸びやかに働ける環境を実現するために、企業社会の中でどのような組織づくりを目指していけばよいのでしょうか。
組織論、経営戦略論の研究者である宇田川元一さんへのインタビュー連載の後編では、変化の激しい現代社会に生きる私たちが持つべき「アダプティブ・リーダーシップ」や、一時避難できるサードプレイスの重要性など、未来の組織にまつわるさまざまな話題で盛り上がりました。
前編:働き方改革の中で、私たちは何に向き合うべきか 経営学者・宇田川元一さん
中編:「分かり合えないのは当たり前」――組織に必要な“対話”の在り方は?
憎むべきは孤独、勇気ある変革者を孤立させるな
WORK MILL: 宇田川先生はこれまでに、さまざまな企業組織の現状分析をされてきていますが、現代の会社によくある組織の問題点とは、どのようなものだと思われますか。
宇田川: 組織を変えていこうとする人が、孤立しがちなことでしょうね。もしかすると今、会社の中で働き方改革の推進を担当している人たちの多くが、現場と上層部との板挟みになって、孤立しているのかもしれません。同じく、経営者も孤立しやすい立場にいると思います。
宇田川: 働き方を変えていくというのは、質的な問題≒多義性の問題と向き合うことと同義です。それは明確な答えのない難しい問いであり、向き合うのはとても苦しい。
そんな時、苦しさや悩みを共有できるような仲間が周りにいないと、その人はどんどん孤独に支配されてしまう。すると、その人は心が折れて何も考えられなくしまったり、必要以上に周りに悪意を感じたり、わらにもすがるような思いで間違った何かに依存しまったりするかもしれません。
WORK MILL: 孤立や孤独が、人にとって毒になる……だとすると、社内で変革を進めていこうとする人が、孤立しない環境をつくるのが大事だと?
宇田川: その通りです。まず旗を振る側の人が、自分の苦しさや悩みを、周りの人たちに語れるようになれるといいですね。一人で抱え込んでいたら、誰もその悩みに参加できないんです。悩みをオープンにして、頼れる同志を得ていきましょう。
とあるベンチャーでは、社長が「オレはこの問題に対してのアイデアがない! 皆でどうすればいいか考えようぜ!」と、あらゆる情報をオープンにしています。社内にあるさまざまな課題について、社員皆で語り合って、皆で解決策を考える環境をつくっていった。結果としてその会社は、役職に縛られないホラクラシー型の組織になり、ユニークな働き方を実践しています。
WORK MILL: 目指したわけではなく、結果的に階層のない組織になったと。
宇田川: 彼らは、彼らなりに“ちゃんと”したかったんだと思います。多くの会社にとっての“ちゃんと”は、オペレーショナルに日々の業務を回すことだと感じますが、彼らにとっての“ちゃんと”は、皆で正面から課題と向き合っていくことだったんです。
WORK MILL: なるほど。
宇田川: 「旗を振る側の人が悩みをオープンにする」ことは、立場を超えて人に頼ることができる、というある種の能力なのかもしれません。そして、もうひとつとても大切なことは、「勇気を出して組織を変えようとしている人を、周りがフォローする」ことです。私たちが「何を信じて従うのか、支援するのか」という選択をいい加減にしていると、皆のために矢面に立った人が損をする会社、社会になってしまいますから。
WORK MILL: より良い世界へ向かおうとする開拓者たちを損させないことが、先頭に立たない、フォロワーたる私たちの重要な役割なんですね。
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